2019 Fiscal Year Research-status Report
クモキリソウ節(ラン科)の進化における菌根菌の変化と菌根形成過程の解明
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19K06815
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
堤 千絵 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (30455422)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 菌根菌 / 系統解析 / ラン科クモキリソウ属 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では生育特性(生活型、生育地、分布範囲など)が多様な日本のクモキリソウ節(ラン科クモキリソウ属)を用い、1. 菌根菌の分子系統解析、2. 共生培養実験と形態学的調査等、を行い、植物の進化に伴う菌根菌の変化と、菌パートナーのシフトに伴う菌根形成過程の変化を明らかにすることを目指している。さらに、3. 共生培養により得られる「植物と菌の共生体」での保全手法を開発し、絶滅危惧種の保全に役立てる。 1. 分子系統解析:本年度は、ジガバチソウ、フガクスズムシソウ、クモキリソウ、ギボウシラン、アキタスズムシソウ、スズムシソウ、コクランなど7種から菌根菌を単離して解析し、分子系統解析を行った。結果、いずれもTulasnella(担子菌門)が検出された。植物と菌それぞれの系統を比較すると、植物の系統が異なると、検出されるTulasnellaの系統も異なっていた。そのためクモキリソウ節では、植物の進化に伴う菌パートナーの変化は、植物の系統的制約を強く受けていることが示唆された。 2. 共生培養実験と形態学的調査:スズムシソウ、ジガバチソウ、クモキリソウの種子を用いて、複数の菌種と共生培養を行い発芽率を比較した。その結果、スズムシソウは、同種あるいは類縁な植物から単離された菌と共生させた場合でのみ高い発芽率を得た。ジガバチソウでは、他の植物から単離された菌であっても、系統が近い菌であれば発芽する様子が見られた。培養したサンプルは内部形態観察にむけて固定し包埋した。 これらの結果からクモキリソウ節では、植物の系統ごとに菌根菌が異なり、菌根菌に対して高い特異性を持つと推定される。 3. 植物と菌の共生体での保全:文献調査と試験準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年秋の台風の影響で、予定していた一部種の果実のサンプリングができなかった。そのほか概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 分子系統解析:サンプルが不十分なスズムシソウなどについては、植物体を採取し菌根菌の解析を実施する予定だが、コロナウィルスによる緊急事態宣言などの状況によっては、サンプリングを次年度に延期し、かわりに2を重点的に行う。 2. 共生培養実験と形態学的調査:2019年に一部の種で果実が得られなかったものの、これまでに得られた種子を用いて共生培養実験を行う。さらに、昨年度に準備した形態解析用のサンプルについて、切片を作成して内部構造を観察する。これまでの観察では、スズムシソウは、本来の菌パートナーでなければ発芽しないが、ジガバチソウは他の類縁な菌でも発芽し、途中まで生育する様子が見られている。発生が停止するステージの特定や、植物内部の菌根菌の位置や形態を観察する。 植物の季節変化による菌根菌の動態変化を明らかにするため、クモキリソウの季節ごとの植物内部の菌根菌の位置や形態を観察する。 3. 植物と最もよく適合する菌根菌と共生した「共生体」を使用して、アルミニウムクライオプレート法を用いた超低温保存法を試験する。
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Causes of Carryover |
台風の影響により果実を収集するための一部調査が実施できなかった。調査は本年度に実施する。
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Research Products
(1 results)