2023 Fiscal Year Research-status Report
陸棲ラン藻Nostoc communeの細胞外マトリクスタンパク質の機能解明
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19K06828
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
坂本 香織 金沢工業大学, 基礎教育部, 准教授 (10367443)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Nostoc commune / anhydrobiosis(無水生活様式) / 細胞外マトリクス / 水ストレスタンパク質 (WspA) / 抗酸化酵素・抗酸化タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題において対象としている陸棲ラン藻Nostoc communeの細胞外マトリクスに存在する主要タンパク質の遺伝子をコードするDNAのクローニングは前々年度までに既に終えていた。当該年度はこのうち、水ストレスタンパク質WspAの機能を明らかにするための手段として、wspA遺伝子を破壊するためのDNAコンストラクトを作製した。 N. communeの遺伝子型A株には、2種類のwspA遺伝子(GenBankアクセッション番号AB518000およびLC195125)が存在するので、この株において遺伝子破壊によってWspAタンパク質の機能を調べるためには、この株がもつ2種類のwspA遺伝子の両方を破壊する必要がある。そのため、カナマイシン耐性カセットまたはΩフラグメント(ストレプトマイシン/スペクチノマイシン耐性カセット)由来のDNAをそれぞれの耐性カセットを選択マーカーとするプラスミド(pAM1044, pET-26b)を鋳型としてPCRにより増幅し、これらのDNAを両wspA遺伝子のそれぞれの内部に挿入したコンストラクトを作製してDNAシーケンシングにより挿入を確認し、形質転換に用いることのできる充分なDNAを調製した。 今年度はこれらのコンストラクトを用いてN. commune遺伝子型A株由来の培養株KU002を順次形質転換する予定であり、現在はエレクトロポレーションによる遺伝子導入に先立ち、遺伝子型A由来の培養株KU002株の超音波処理による細胞外多糖の除去と単細胞化に最適な条件を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度の本報告書に示した通り、当初はwspA遺伝子を破壊するためにDNAコンストラクトの作製に、ストレプトマイシン/スペクチノマイシン耐性カセットのみを用いる予定であったが、このカセットを含むプラスミドpAM1044から制限酵素処理により耐性カセットDNAを切り出してwspA遺伝子内部に挿入する試みは、上手くいかなかった。 また上記で述べた通り、遺伝子型A株には2種類のwspA遺伝子が存在するので、この株の両wspA遺伝子を破壊するためには異なる抗生物質耐性マーカーの利用が必須となった。これらの理由から、pAM1044とカナマイシン耐性カセットを含むpET-26bからそれぞれ、ストレプトマイシン/スペクチノマイシン耐性DNAおよびカナマイシン耐性DNAを増幅してそれぞれを2種類のwspA遺伝子(AB518000およびLC195125)内部に挿入することにより、4種類の遺伝子破壊コンストラクトを得た。 N. communeの形質転換についてはこれまでに報告がなく、他のfilamentous cyanobacteriaをエレクトロポレーションにより形質転換した報告によると、形質転換の前に数珠状の細胞を単細胞化する必要がある(Hudek et al., 2013)。単細胞化する物理的手法として一般に超音波処理が用いられるが、数珠細胞の大半を単細胞化させるような条件では、細胞外多糖を同時に除去できる反面、細胞の大半を傷付け死に至らしめてしまうことが分かった。このため、細胞が単細胞化されつつ、致死率がそれほど高くはならないような処理条件を調整する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
申請書に記載した研究実施項目のうち、1つめのE. coliでの発現によるN. commune細胞外マトリクスタンパク質の機能解析については、WspAとDpsタンパク質で試みた結果、一部のDpsタンパク質のみがE. coli菌体内で可溶性画分に蓄積することが分かったので、非変性条件での電気泳動や酵素活性測定、結合アッセイなどによりN. communeのDpsの構造と機能が近縁種のそれらと同様であるのかどうかを検証する。一方、WspAタンパク質はE. coli菌体内で不要性画分に蓄積したが、このタンパク質を用いて抗WspA抗血清を調製したので、これより抗WspA抗体を精製してカラムに結合させ、次いでアフィニティークロマトグラフィーによってN. communeのnativeなWspAを特異的に結合させることで、N. communeのWspAと相互作用する細胞外因子の探索が可能になると考えている。 2つめの形質転換法については、現在N. commune KU002株を用いたエレクトロポレーション法の実施に先立って前処理である超音波処理の条件検討を行っており、細胞外多糖の除去と併せてKU002細胞の単細胞化と超音波処理による細胞致死のバランスが保たれるような処理条件を定めることができれば、エレクトロポレーション自体はN. punctiformeで用いられている条件(Summers et al., 1995)に準じて行うことで形質転換体が得られると期待している。 3つめの遺伝子破壊に関しては、先ずはWspAタンパク質の破壊コンストラクトの作製に成功したので、スーパーオキシドディスムターゼ (SOD)やDspタンパク質といったN. communeの他の細胞外マトリクスタンパク質の機能解析に向けた遺伝子破壊用コンストラクトも、同様の手法により比較的容易く作製できると予想される。
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Causes of Carryover |
初年度に購入した設備(エレクトロポレーター)がディスカウント価格であったため、申請した価格を下回った。 今年度新規に開始する実験において必要になる試薬や器具の購入、そして培地成分などの補充に充てる予定である。
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