2022 Fiscal Year Annual Research Report
増えすぎたシカはヒグマにとって恵みか災いか? ヒグマとシカの種間関係に関する研究
Project/Area Number |
19K06833
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
下鶴 倫人 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (50507168)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヒグマ / エゾシカ / 種間関係 / 食性 / DNAバーコーディング / 安定同位体比解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、エゾシカの増加がヒグマの生態に与える正および負の影響を明らかにし、両種の種間相互作用を解明することを目的とした。知床半島においてシカ・ヒグマの生息密度が異なる地域(知床岬:両種とも中密度、ルシャ地区:両種とも高密度)を対象として、ヒグマの糞・体毛を回収し、糞分析、DNAバーコーディング法、体毛の安定同位体比解析を用いてシカの生息密度の違いがヒグマの食性に与える影響を調べた。2019年から2022年の6月において知床岬で136個、ルシャ地区で191個のヒグマ糞を収集し、シカ残滓の出現頻度を調べたところ、前者では3.7%(5/136)、後者では11.0%(21/191)であり、ルシャ地区におけるシカ利用頻度が有意に高いことが明らかになった。次に、収集したヒグマ糞およびシカ糞を用いてDNAバーコーディング法による食性解析を行った。この結果、両地区に生息するヒグマはいずれも草本類を主体としている点は共通していたが、知床岬の方がルシャ地区に比べ、セリ科草本など、ヒグマが好むとされる植物が高頻度で出現する傾向が認められた。また、ルシャ地区ではカエデ属の植物が高頻度で出現するなど、木本類の利用が認められた。一方、エゾシカにおいては利用する植物に地域間での明瞭な違いは認められなかった。さらに、両地区で採取されたヒグマの体毛を用いて安定同位体比解析を実施した。この結果、両地区での陸生哺乳類(エゾシカを含む)の利用割合は10%程度であり、地区間では優位な差は認められなかった。以上のように、エゾシカの高密度地域に生息するヒグマは、6月のエゾシカの出産期において新生子を高い確率で捕食することができる一方で、ヒグマが本来好む草本がエゾシカの採食により枯渇し、代替として木本類の若葉を利用するなど、採食生態を変化させることで適応していることが示唆された。
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Research Products
(7 results)
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[Presentation] 血液を用いてヒグマの年齢を推定する DNAメチル化率を指標として2023
Author(s)
中村汐里, 山﨑淳平, 松本直也, 伊藤英之, 村山美穂, 斉惠元, 木下こづえ, 山中正実, 栁川洋二郎, 佐鹿万里子, 坪田敏男, 下鶴倫人
Organizer
第70回日本生態学会大会
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[Presentation] ヒグマにおける血液DNAのメチル化率を指標とした年齢推定の試み2022
Author(s)
中村汐里, 山﨑淳平, 松本直也, 伊藤英之, 村山美穂, 斉惠元, 木下こづえ, 山中正実, 栁川洋二郎, 佐鹿万里子,坪田敏男, 下鶴倫人
Organizer
第165回日本獣医学会学術集会