2021 Fiscal Year Research-status Report
多様な送粉動物への適応における花のトレードオフ解消戦略の重要性
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19K06834
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大橋 一晴 筑波大学, 生命環境系, 講師 (70400645)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 種間関係 / 進化生態 / 行動生態 |
Outline of Annual Research Achievements |
トレードオフ解消がもたらす花形質の進化を明らかにするためにおこなった一連の研究で、以下の4つの成果を上げた。 ①初年度に行ったクロマルハナバチを用いた室内実験で得た「花をよこ向きに咲かせることには、送粉昆虫の吸蜜姿勢のばらつきを少なくする強い効果がみられ る一方、花の対称性にはそのような効果がほとんどみられない」という通説を覆す発見を、実験を主導した学生を主著とする原著論文にまとめた(近日中に投稿予定)。 ②昨年度文献データの解析で見つけた「柱頭が短い植物種は、柱頭が突出した種にくらべ、異種花粉を受け取りにくい傾向」が生じるメカニズムを、トラマルハナバチと形質を操作したアベリアの花を用いた室内実験で調べたところ、突出した柱頭ほどハチの体表部位の広範囲に触れやすくなることがわかった。またコンピュータ・シミュレーションの結果、このような広範囲への接触により、突出した柱頭はハチの身体の異なる部位に付着した、より多様な植物種の花粉を拾いやすくなることが明らかとなった。この成果は、実験・調査を主導的に行った大学院生が、2つの国内学会で発表した。 ③「古花の色変化が誘引をめぐる送粉動物間のトレードオフを解消する」という仮説を検証する実験の一環として、花数の多い花序に送粉動物 がより頻繁に誘引される機序を調べるため、Y字迷路を用いたクロマ ルハナバチの室内実験をおこなった。その結果、花序あたりの花数が多くなると、ハチの視覚上における「融合」が生じ、遠距離からの視覚検出率が高まることが明らかとなった。この成果は、実験・調査を主導的に行った学生が、国内学会で発表した。 ④「トレードオフ解消による多様な送粉動物への同時適応が、さまざまな形質が組合された花の表現型の多様性を生み出した」という本研究課題の核となる新しいアイデアをまとめた原著論文を国際誌に発表し、かつ国際学会および国内学会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスの感染拡大の影響で期待以上の進展は困難であった2020年度とは打って変わり、トレードオフ解消による花の形質進化というアイデアを軸に展開してきた3つの研究プロジェクトが、いずれも論文発表に相応しい新しい発見につながった(うち1つはすでに投稿論文の原稿がほぼ完成)。実験を開始してわずかの間にすべてのプロジェクトでこのような成果が得られたのは、実験を手伝ってくれた学生たちのアイデアと工夫によるところが大きい。このような状況を鑑みて「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、花の向きと対称性の組み合わせの効果を検証した原著論文を国際誌に投稿し、掲載にこぎつける予定である。 第二に、突出した柱頭が異種花粉を多く受け取りやすい機序について明らかにした今年度の実験結果を、昨年度の文献データのメタ解析の結果と合わせ、投稿論文にまとめる予定である。この論文により「異種間花粉移動が繁殖に悪影響をおよぼす環境では、短い柱頭をもつ花が進化的に有利になりやすい」という、これまで見過ごされてきた花の形質進化の可能性を指摘する。 第三に、たくさんの花を同時に咲かせると視覚融合によって遠方の送粉昆虫に発見されやすくなることを実証した研究結果を、さらに、性質が異なる別の花色でも成り立つかどうか、さらに実験を重ねる予定である。 第四に、異なる送粉動物間で生じる機会トレードオフの解消策としての開花時刻の進化について、これまで採りためたデータを解析して投稿論文にまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
年度末に現地での参加を予定していた国内学会(日本生態学会大会)が、直前に新型コロナウィルスの感染拡大防止のため全面オンライン開催に急遽変更となった。このため、旅費として使用する予定だった金額(学生3人分)が不使用となってしまった。次年度は、本課題の研究プロジェクトの一貫として起ち上げを予定している野外実験の用具の購入、および学会参加時の旅費として利用する予定である。
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