2020 Fiscal Year Research-status Report
シロイヌナズナ属野生種における自殖の進化プロセスの包括的理解
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19K06835
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保田 渉誠 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (10771701)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 次世代シーケンサー / 自殖 / ハクサンハタザオ / 自家不和合性 / S遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はハクサンハタザオを対象とし、自殖回避の生理的メカニズムである自家不和合性の崩壊、言い換えれば自殖の進化を、遺伝子変異のレベルおよび生態レベルの両面から説明することを目的としている。 2年目にあたる本年度は、共同研究者(本研究課題の分担者ではない)である東京大学の土松隆志氏のご協力のもと、ハクサンハタザオにおける自家不和合性の遺伝的メカニズムにせまる研究を進めた。実際の野生集団においてどのようなS対立遺伝子が分離しているのかを把握するために、自殖可能な個体を含む、計173個体について全ゲノムリシーケンスを行った。S対立遺伝子ごとにBACライブラリ由来のリファレンスを用意し、それらすべてについてマッピングを行う方法を用いて解析を行ったところ、約30個体から3種類のS対立遺伝子を同定することができた。さらに、同一の特異性をもつとされるS対立遺伝子内にもいくつかの非同義置換が見られることが明らかになり、そのうちのいくつかはSCR/SRKタンパク質の推定相互作用部位の中にあった。これらは自家不和合成崩壊の遺伝的基盤である可能性があり、今後さらに解析を進めていく必要がある。 さらに、熊本県の集団は日本国内において最南西端に位置する重要な集団であるが、これまで人工気象器内で開花させることができず、自家不和合性の有無を検証することができなかった。低温処理後の条件を変更することで開花させることに成功し、この集団の個体も自殖可能であることを発見した。すでに自殖を確認している島根県のケースも考慮に入れると、本種における自殖性は中国地方以西に広く分布している可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は新たに40個体以上についてゲノムリシーケンスデータの取得に成功し、S遺伝子 型の解析に詳しい土松隆志氏のご尽力もあって、自殖進化の遺伝的基盤については順調に進んでいると言える。一方で、昨年度に引き続き、今年度も新型コロナウィルスに伴う外出自粛の影響を受け、当初より予定していた野外での受粉実験が実施できなかった。したがって、自殖進化の生態的メカニズムについては遅れてしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度もコロナの影響が収まる見込みはなく、受粉実験など、野外での大規模な調査は変更せざるを得ないと考えられる。自殖進化の遺伝的基盤に重点を置いた研究展開を見据え、今後もゲノムリシーケンスとS遺伝子座の解析を精力的に進める。
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Causes of Carryover |
今年度も新型コロナウィルスの影響は大きく、本研究の重要な要素である「野外調査」はあきらめざるを得なかった。そのため、野外調査の旅費、実験道具や解析の数々が中止になり、未使用額が大きくなってしまった。 次年度もコロナの影響は続くと考えられるため、研究の主眼を遺伝的基盤の解明に置き、当初の計画よりも分子実験解析を拡充することで残予算を消化する。
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[Presentation] 全ゲノム分析によるアキノキリンソウ土壌生態型の隔離遺伝子の特定2021
Author(s)
*阪口翔太(京大院・人環), 堀江健二(旭川市北邦野草園), 石川直子(大阪市大・植物園), 重信秀治(基礎生物学研究所), 山口勝司(基礎生物学研究所), 長谷部光泰(基礎生物学研究所), 三木綾乃(京大院・人環), 瀬戸口浩彰(京大院・人環), 永野惇(龍谷大・農), 久保田渉誠(東大院・総合文化), 他
Organizer
日本生態学会第68回大会