2022 Fiscal Year Annual Research Report
深海性多毛類腸管内硫黄化合物は金属および硫化水素無毒化に貢献するか
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19K06844
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
小糸 智子 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (10583148)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 深海性多毛類 / 腸管上皮細胞内顆粒 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は浅海性多毛類のハナオレウミケムシを対象に、硫化物および鉄の曝露実験を実施した。本種は肉食性で移動性を示す。熱水噴出域の硫化物濃度および鉄濃度から、硫化物を20、200μM、鉄濃度を0.1、1.0ppmとして、24時間までの曝露を行なった。曝露後、腸管とその他部位に解剖し、高速液体クロマトグラフィーによる遊離アミノ酸分析およびフェロジン法による鉄元素の定量を行なった。硫化物、鉄曝露いずれも4時間までに含硫アミノ酸(タウリン関連化合物)や鉄元素が増減した。また、腸管とその他部位では腸管での含硫アミノ酸、鉄元素の蓄積量が著しく多かった。硫化物曝露では、20μMで腸管のタウリン関連化合物が増加した一方、200μMでは経時的に減少する傾向がみられた。これにより、濃度によってチオタウリン合成か顆粒形成に分かれる可能性が示唆された。0.1ppmの鉄曝露に曝露した腸管の鉄元素量は対照区と差がみられなかったが、1.0ppmに曝露した腸管では鉄元素量が経時的に増加したことから、1.0ppmでは顆粒を形成している可能性が示唆された。 研究期間全体を通して、同所的に生息する多毛類であっても、腸管上皮細胞内に硫黄や金属で構成される顆粒を多量に形成・蓄積するか否かは種によって異なることを見出した。菌叢解析によりこれら2種の腸内細菌叢が類似していたことから、顆粒の形成には腸内細菌が関与しないことが示唆された。また、腸管内の含硫アミノ酸量が顆粒を形成する種で少なく、顆粒を形成しない、あるいは少量しか形成しない種では多量に蓄積されていた。さらに、浅海性多毛類では硫化物や金属の濃度によって硫黄や金属の代謝方法が異なる可能性が示唆された。以上より、固着性と移動性という生態の相違が腸管内顆粒形成の有無を決定するという仮説を立てたが、曝露される物質の濃度や食性によって顆粒を形成するという新たな仮説が生じた。
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