2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K06845
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
桑村 哲生 中京大学, 教養教育研究院, 教授 (00139974)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂井 陽一 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (70309946)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ニセクロスジギンポ / 掃除魚擬態 / 攻撃擬態 / 保護擬態 / クロスジギンポ / 鰭かじり / 卵食 / ホンソメワケベラ |
Outline of Annual Research Achievements |
掃除魚ホンソメワケベラに体型・体色が酷似するニセクロスジギンポの保護擬態(捕食回避)の効果を検証する方法の1つとして、唯一の同属種で体色が異なる非擬態種クロスジギンポと生存率及び摂餌行動を比較するため、沖縄県宮古島のサンゴ礁において年4回の定期調査を実施する予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う出張自粛のため、2020年度は実施することができなかった。 野外調査ができない間に、2019年度までに得られたデータの解析を進めて論文を投稿し、次の3本が掲載され、1本が査読中である。1)ニセクロスジギンポの小型個体の鰭かじり頻度(攻撃擬態への依存度)にみられる地域差が、他の餌(イバラカンザシ・ヒメジャコガイ)の有無によって生じることを実証(Fujisawa, Sakai, Kuwamura 2020)、2)ニセクロスジギンポの体色変異個体をインド・西太平洋域で初めて発見したことの報告(Sato, Sakai, Kuwamura 2020)、3)体色変異個体と擬態体色個体の摂餌行動及び死亡率の比較(佐藤・坂井・桑村2020)、4)ニセクロスジギンポの大型個体がスズメダイ類の卵を食べる際の群れの効果(被攻撃頻度の低下と採餌効率の向上)の検証(Sato, Sakai, Kuwamura 査読中)。 一方、幸いにも、研究協力者は2020年度も瀬底島に長期滞在することができ、瀬底島ではニセクロスジギンポの個体数が例年より少なかったものの、対岸(沖縄島)の崎本部において多くの個体が確認された。大型個体が群れを形成してスズメダイ類の巣を襲って卵を食べる行動について多くの動画を撮影することができ、群れを構成する個体間の協力行動について分析を開始した(学会発表:佐藤・坂井・桑村 2020、2021)。この群れて卵食する行動と擬態との関係についても分析していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究目的に挙げた3点の解明に関する現在までの進捗状況は以下の通りである。 ① 攻撃擬態の進化要因:餌として利用しうるイバラカンザシやヒメジャコガイが少ない地域においては、ニセクロスジギンポ小型個体の鰭かじり頻度が高くなることが、石垣島(Fujisawa et al. 2020)に続いて、宮古島においても2019年度の調査で追認できた。そのような地域では、小型個体は攻撃擬態に強く依存していると考えられた。 ② 保護擬態の効果:同属の非擬態種クロスジギンポとの生存率の比較による保護擬態の効果の検証については、2020年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う出張自粛によりデータがとれなかったため、予定より遅れている。 ③ 擬態の進化経路:同属の非擬態種クロスジギンポでは宮古島でも鰭かじりや卵食をしなかったことから、ニセクロスジギンポの擬態は小型個体において鰭かじりの効率を高めるために進化した、すなわち攻撃擬態として進化した可能性が高いと考えられた。一方、卵食と擬態の関係については、さらに分析を進める必要がある。2020年度に崎本部において撮影できた群れ卵食行動の動画をさらに詳しく分析し、群れにおける協力行動と掃除魚擬態との関係について考察する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染拡大防止のための出張自粛が解除され次第、宮古島と瀬底島の野外調査を再開する。 宮古島においては、6月、9月、12月、3月に掃除魚ホンソメワケベラ(以下、「ホ」と略す。)、擬態種ニセクロスジギンポ(ニ)、同属の非擬態種クロスジギンポ(ク)の個体数を調査し生存率を比較する。ニセクロスジギンポの大型個体はスズメダイ類の卵に依存していることが明らかになってきたため、卵食対象となるスズメダイ類の産卵期(6月~12月)と非産卵期(12月~3月)に分けて、3種の生存率を比較する。保護擬態(捕食回避)の効果があるとすれば、産卵期の生存率は「ホ=ニ>ク」、非産卵期は「ホ>ニ<ク」になると予想される。 瀬底島及び崎本部においては、ニセクロスジギンポの大型個体が群れでスズメダイ類の卵を食べる行動のデータ(動画)をできるだけ追加し、動画の詳しい分析により協力行動の実態を解明するとともに、擬態との関係を分析する。 また、2021年度中に(1)ニセクロスジギンポの繁殖生態の特徴を記載し、擬態との関係を考察する論文と、(2)群れ卵食における個体間の協力行動に関する論文を投稿する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う出張自粛により、宮古島への4回の定期調査出張、及び瀬底島への調査出張をとりやめたため、代表者の調査旅費として予定していたものを全額、次年度に繰り越さざるをえなかった。 次年度は上記の宮古島における年4回の調査と瀬底島における調査の滞在日数を増やすことにより、データ収集の遅れを取り戻したい。
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Research Products
(5 results)