2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K06849
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
長 泰行 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (90595571)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 捕食者ー被食者間相互作用 / 血縁認識 / 捕食回避行動 / ギルド内捕食 / 母性効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、血縁認識能力を有することが分かっている捕食者キイカブリダニが、同種他個体との血縁関係に応じて、卵の保護を変化させることによって、被食者ミカンキイロアザミウマおよびギルド内捕食者ミヤコカブリダニと共存しやすくなるという仮説を検証するものである。 本年度は、キイカブリダニ雌成虫が、卵を捕食するミヤコカブリダニ幼虫の存在下で、自分が産んだ卵に対しては捕食者から守るのに対し、他個体が産んだ卵に対しては守らないことを室内操作実験によって明らかにした。このような違いが生じた原因として、キイカブリダニ雌成虫が他個体の卵が存在する時よりも自分の卵が存在する時に、ミヤコカブリダニ幼虫を多く攻撃したことが、明らかになった。つまり、キイカブリダニは、危険なミヤコカブリダニ幼虫を殺すことで自分の卵を守ると考えらる。 一方、キイカブリダニは自分と他個体の卵を区別し、他個体の卵のある場所へ産卵することは、本研究の開始以前に分かっていた。本年度行った実験の結果から、キイカブリダニ雌成虫が卵から放出される揮発性物質を利用して血縁関係を認識し、産卵場所を選択していることが示された。動物が卵の放出する揮発性物質の違いによって血縁関係を認識し、産卵を変化させることを示したのは、本研究が世界で初めてである。また、オランダにあるアムステルダム大学のArne Janssen准教授を訪問し、これまでに得られた実験結果や論文の内容、今後の研究計画について議論を行った。 これらの成果の一部は第64回日本応用動物昆虫学会において口頭発表を行っただけでなく、論文として執筆・投稿し、国際学術誌であるEcological Entomologyから掲載が決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、キイカブリダニの集団の遺伝的変異が他の生物群集との共存に及ぼす影響について検証するため、主として以下の3点(I)ミヤコカブリダニからの卵保護にキイカブリダニ雌成虫と卵の血縁関係が及ぼす影響、(II)複数のキイカブリダニ個体による卵保護に個体間の血縁関係が及ぼす影響、(III)キイカブリダニ集団内の遺伝的変異が生物群集に及ぼす影響、に注目して研究を進める予定である。本年度は、「研究実績の概要」で説明したように、(I)について実験を行い、キイカブリダニ雌成虫が他個体の卵よりも自分の卵を守ることを明らかにした。キイカブリダニは産卵場所に留まる習性があることから、他個体の卵に対しても保護効果がある程度存在することを予想していたが、それを支持しない結果となった。しかしながら、自身と他個体の卵で保護が異なるという予想を概ね支持する結果を得ることが出来た。また、得られた成果を一部、論文として掲載の決定につなげ、国内学会での発表に至った。一方、一部内容は執筆中ではあるものの、いまだ投稿に至っていないため、公表につなげる予定である。 上記のような点から、本研究の進捗状況は、おおむね順調に進展している、と判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題を推進していくうえで、来年度は、複数のキイカブリダニ個体による卵保護に個体間の血縁関係が及ぼす影響、について検証を行う予定である。一方、キイカブリダニ雌成虫が他個体の産んだ卵よりも自分自身が産んだ卵を守ることが本年度の研究によって明らかになった。これは、キイカブリダニが産卵場所にある卵との関係に応じて、ミヤコカブリダニによる卵捕食を弱める効果が異なることを示すものである。これによって、血縁関係にある同じ母親由来のキイカブリダニが複数個体存在する場合の方が、異なる母親由来のキイカブリダニ同士が存在する場合よりも、卵をミヤコカブリダニから守る効果が強く、子孫の個体数が増加するという結果が期待される。また、キイカブリダニ集団内の遺伝的変異が生物群集に及ぼす影響について検証を行うため、実験に用いる生物の齢期や個体数についても予備実験を行い検討する。 2020年度にはフィンランドのヘルシンキで開催される第26回国際昆虫学会議にてシンポジウムを企画し、ポスター発表も行う予定であったが、コロナウィルスの世界的流行の影響で学会の延期が決まっている。そのため、2021年度に学会参加の予定を変更する。
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