2019 Fiscal Year Research-status Report
単細胞生物におけるプログラム細胞死の進化に関する数理生態学的研究
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19K06851
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山内 淳 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (40270904)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | プログラム細胞死 / 進化 / 群集構造 / 理論 / コロニー定着モデル / 競争-繁殖力トレードオフ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、単細胞生物におけるプログラム細胞死の進化を理論的に理解することを目指している。2019年度の取り組みの中で、その理論モデルの構築には、先行研究で提案されている「コロニー定着モデル」が有効であることが分かり、その拡張に取り組んだ。ところがその過程で、「コロニー定着モデル」は生物群集の多様性の維持機構と密接な関係があり、単細胞生物のプログラム細胞死の理論はその発展形として位置付けられることが分かった。そのため、単細胞生物の細胞死の理論解析に先んじて、「コロニー定着モデル」に基づく生物群集の多様性の解析を進めることにした。 「コロニー定着モデル」は、生息域内にコロニー形成に適したサイトが離散的に分布する状況を想定する。各時点で、それぞれのサイトは空きサイトであるか、いずれか1種の生物のコロニーが形成されている状態をとる。各種はそれぞれ競争力が異なり、サイトで2種が出会うと競争力の高い種がサイトを占めてコロニーを形成する。各種はコロニー内で増殖し、次世代が新たなサイトへと分散する。なお、競争力と繁殖力の間にトレードオフを仮定する。 このモデルの解析から、競争力が連続形質である場合には、群集内では無数の種が滑らかな頻度分布を示しつつ共存することが示される。ところが競争力が離散形質である場合、競争力が隣り合う種の頻度が、高い値と低い値を交互に示す「ノコギリ状」の分布が一般的に生じる。この分布を順位-アバンダンス曲線に変換すると、野外データで見られる傾向が再現されることがわかった。また、「コロニー定着モデル」から得られる順位-アバンダンス曲線には定性的かつ特徴的な傾向があり、それがいくつかの野外データに見られる傾向と一致する。この解析は、群集構造を規定する要因に関する仮説を、「データのグラフの形状への適合の良さ」のみから評価する先行研究とは一線を画すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、研究課題である単細胞生物のプログラム細胞死そのものではなく、メカニズムにおいてそられと構造的な共通点を持つ群集構造に関する研究に中心的に取り組んだ。その取り組みは、本来の研究課題の解析に用いる「コロニー定着モデル」の整備の一環であり、研究課題遂行に向けての予備研究と位置づけられる。そうした意味から、研究課題の遂行に向けて、基盤の整備を着実に進めている状況である。 この間のコロニー定着モデルに基づく群集構造の解析では、本モデルから導かれる群集の定性的特徴が野外データに現れる特徴とよく一致していることを見出している。これは、「グラフの形状への適合の良さ」のみで仮説を評価する群集モデルの先行研究とは全く異なる視点に立つもので、非常に新奇かつ有望な成果である。現在、この解析についての論文を執筆中である。その成果は、単細胞生物のプログラム細胞死の理論解析をさらに進める上で、重要な知見を提供している。 現在までに、単細胞生物のプログラム細胞死に関する理論解析の予備的な成果も学会・研究会等で公表しており、本来の研究課題そのものの解析も着実に進んでいる。こうしたことから、研究目標の達成に向けての進捗も問題ないと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度には「コロニー定着モデル」に基づく群集構造の理論解析に関する取り組みを中心的に進めてきた。現在、その結果を論文として取りまとめているところであり、その成果を学術論文として早急に発表することを目指す。また、さらにその取り組みの中で、生物とサイトとの遭遇過程が変わると、群集構造のダイナミクスが大きく変化することを見出した。現在、その現象について解析を進めており、その結果もまた群集構造と関連付けながら取りまとめて行くことを考えている。それら関連する解析結果の取りまとめと並行しながら、単細胞生物のプログラム細胞死に関する理論解析を順次進めて行く計画である。 単細胞生物のプログラム細胞死の進化に関する解析では、様々なレベルで細胞死を行う系統の頻度ダイナミクスを、コロニー定着モデルを拡張して解析する。そのモデルでは、系統の競争力と増殖速度の間に、細胞死を伴う個体群動態を介して非線形なトレードオフが生じる。群集構造のコロニー定着モデルもまた、競争と増殖力の間のトーレードオフを考慮した理論であり、そこで得られた知見がプログラム細胞死の進化解析において重要な基礎となる。そのことを踏まえ、まずは群集構造に関する理論解析を通じてコロニー定着モデルの特性を明らかにしつつ、その知見に基づいて単細胞生物のプログラム細胞死の進化に関する解析を展開する予定である。 ただし、新型肺炎の影響により、2020年度に計画していた学会や海外渡航がキャンセルとなっている。こうした機会をどのように補填するかについては、今後検討して行く。
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Causes of Carryover |
当該年度に海外で開かれる研究集会への参加を予定していたが、その集会の開催日程が次年度の4月になったため、当該年度の予算の一部を次年度の海外渡航のために繰り越した。
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Research Products
(9 results)