2021 Fiscal Year Research-status Report
単細胞生物におけるプログラム細胞死の進化に関する数理生態学的研究
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19K06851
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山内 淳 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (40270904)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 移住モデル / 多種共存 / ランク-アバンダンス曲線 / 競争力-繁殖力トレードオフ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題「単細胞生物におけるプログラム細胞死の進化に関する数理生態学的研究」の遂行において、単細胞生物の種内の系統間の競争を数理モデルとして記述する必要があったが、それに関して生物種の多種共存を理論化した移住モデル(colonization model)が応用できることに思い至った。この移住モデルを用いた解析を進める中で、そのモデルの本来ターゲットである多種共存の問題に発展の余地があることに気づき、この間、その課題について取り組んできた。 各種の競争能力と繁殖能力の間にトレードオフを仮定すると、移住モデルにおいて多種の共存が実現する。その群集についてランク-アバンダンス曲線を描くと、その曲線上における種の配置に特徴的なパターンが現れる。 すなわち、種間でのランクの距離(差)が様々な近縁ペア間で比較的同じような値になり、また、近縁な種が存在する種はランク-アバンダンス曲線上で高いランクか低いランクに偏って分布する傾向が見られる。これらを踏まえ、1つのコウモリの群集と2つの鳥の群集について、ニッチが類似している近縁種のペアのランク-アバンダンス曲線上での位置関係を調べ、それらが確かにモデルの予測と一致する傾向があることを見出した。この研究成果はEcology and Evolution誌に発表された(Yamauchi et al., 2021a)。また、この多種共存の研究から派生して、多種共存理論に関する総説を、日本と韓国の研究者との共著により、書籍の1章として発表した(Yamauchi et al., 2021b)。 これらを含む研究成果は、2021年度に開催された国内の学会での一般発表に加え、2件の国際シンポジウムでの招待講演において発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウィルスの蔓延により、当初予定していた国際学会への参加や海外渡航が軒並みキャンセルとなり、十分な情報収集が行えなかったことから計画は遅れ気味である。また、本来の研究課題である「単細胞生物におけるプログラム細胞死」の研究に必要な手法の整備から派生した「移住モデルに基づく多種共存理論」の研究に取り組んでいたことによっても、当初の研究課題の進捗は遅れ気味となった。研究費の繰越によって研究期間を延長し、最終年度中に数本の研究論文を出版することを目指して準備中である。 当初計画していた研究課題は本研究期間内では完了できない可能性もあるが、その遂行に必要な理論的手法の整備は完了したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本来の研究課題である「単細胞生物におけるプログラム細胞死」の研究を推進するための理論的枠組みとして移住モデルを用いることとしたが、そのモデルの性質は必ずしも十分に解明されているわけではなかった。今後、当初の研究課題への取り組みを可能とすべく、少なくとも移住モデルの基礎的な性質の解明を進めておきたいと考えている。 例えば、各種のサイトへの移住確率が幼生の数によって決まる場合と、幼生プール中の幼生の比率によって決まる場合では、種の頻度のダイナミクスのパターンが大きく変化することが分かってきた。このことは、多種の共存はもちろん、種内での系統の共存機構にも示唆を与える知見である。本研究期間中には当初の研究計画を達成できないかもしれないが、アプローチの基盤をなす理論モデルについての情報を整備することで、今後の研究への取り組みの道筋をつける計画である。
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Causes of Carryover |
コロナウィルスの蔓延に伴い、参加を予定していた国際学会への参加や海外の研究者との研究打ち合わせが遂行できなくなり、支出が減少した。今年度中に、可能であれば海外の研究会などに参加し、研究の成果を発表したいと考えている。また、この間の進捗の遅れを埋め合わせるために、国内の研究機関等を訪問し研究の成果について議論を行いたいと考えている。
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