2020 Fiscal Year Research-status Report
Analysis of mechanisms of environmental responses based on profiling of organ-specific gene expressions in plants
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19K06861
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
荒木 希和子 立命館大学, 生命科学部, 講師 (30580930)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 地下茎 / 季節変化 / 土壌環境 / 遺伝子発現 / 生物防御 / 器官形成 / クローナル植物 / クローン成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
分化全能性を持つ植物では、器官の形成や伸長は周囲環境に影響を受けるものの、柔軟性や特異性を含む環境応答メカニズムは十分理解されていない。本課題では、地下茎の挙動に着目して周囲環境による変化を調べ「植物が周囲環境へ器官特異的に応答する仕組みの解明」を目指している。 <野外調査>自生地より月に1-2回、コンロンソウ(Cardamine leucantha)3-10株を掘り起こし、地下茎の成長と分化ならびに遺伝子発現量を経年調査した。生物防御に関わるER body(endoplasmic reticulum body)に関連する遺伝子ClePYK10の発現量は、年変動や株間の差異が大きいものの、地下茎が伸長する時期から根出葉形成にかけて維持され、花芽が形成される1月から3月に低下する傾向であった。一方で、同時期でも地下茎の枯死率と根出葉の展葉により株間でClePYK10の遺伝子発現量が異なることが明らかとなり、個株の持つ地下茎の状態によって地下部の防御応答が変化することが示唆された。またClePYK10の遺伝子発現量は、地下(根、前年・当年基部・当年先端の地下茎)と地上(茎、葉、花)の部位で明瞭に異なり、地下茎では新しい組織ほど発現量が高く、地下茎から地上茎へと移行すると顕著に低下することが確認された。 <栽培実験>地下茎の伸長に対する土壌環境の影響を調べるため、有機物や粒度組成の異なる土壌条件でコンロンソウを栽培した。その結果、地下茎の生存率とClePYK10発現量に条件間で違いが見られ、土壌の生物性と物理性が地下茎の挙動に影響することが明らかとなった。メタゲノム解析より、地下茎の内生菌は根や土壌とは異なることから、周囲環境との相互作用も地下茎を特徴づける一つの要因になりうると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コンロンソウ(アブラナ科タネツケバナ属)を対象に、 (1)滋賀県多賀町の集団において2019年4月から月1-2回野外調査を実施した。また3-10株から地下茎組織を採取し、 ClePYK10のreal-time定量PCRを行った。2020年度は同時期のサンプル数を増やし、各株のフェノロジーの違いを区別したことで、遺伝子発現量と、地下茎の枯死率および根出葉分化の関係を検証することができた。部位間でのClePYK10遺伝子発現量の定量的な違いも示せた。また一過的発現の顕微鏡観察より、根出葉の展葉期の地下部においてもER body形成を確認している。この内容においては、当初の計画以上に研究が進展している。 (2)花芽形成期の地下茎のトランスクリプトーム解析では、移動制限と降雪の影響により適切なサンプルが得られなかったため、2020年度はRNA-seqを行えなかった。一方、地下茎で高発現する遺伝子や部位間で発現量の差異が大きい遺伝子について、複数の株のreal-time定量PCRで、トランスクリプトーム解析と矛盾の無い結果が得られており、これらの遺伝子を器官特異性の指標とした発現量の時系列解析を進められる。 (3)光環境に対する地下茎の応答については、自粛期間と開花期が重なり、野外から十分な株を採取することが困難であったため、2020年度は正確な実験を実施できなかった。 (4)地下茎の伸長と防御応答に対する土壌環境の影響について、2019年度の栽培実験を踏まえて、2020年度は(i) 有機物施肥、(ii)化学肥料施肥、(iii) 無施肥土壌でコンロンソウを栽培し、土壌の生物性と物理性が地下茎成長を介して生物防御機構に影響する可能性が見出された。内生する微生物叢についての解析が進んでいるため、その結果を踏まえて、地下茎特異的な菌叢や固有種についてさらなる解析の進展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) ClePYK10以外の生物防御関連遺伝子(CleNAI2、ClePBP1、 CleBGLU18、CleTSA1、CleGLL23など)、地下茎と茎頂で発現差が大きかった遺伝子(CleLSH10、 CleAGL9など)、地下茎と根で発現差が大きかった遺伝子(Cle CA1、ClePBX、CleMYB15など)についても、季節ごとに各部位でreal-time 定量PCRを行い、成長と分化にともなう遺伝子発現変化より器官の特異性を明確にする。 (2)花芽形成時期の器官特的な遺伝子発現パターンについて、1月から4月にかけての地下茎のトランスクリプトーム解析を実施する。それにより地下茎から花茎へ移行する過程における遺伝子発現の部位間の比較から、形態変化と遺伝子発現の変化はどちらが先行するかを特定する。 (3)季節変化のない条件(明暗12h/12h、温度22度)での栽培、ならびに伸長中の地下茎への光照射の実験を行い、地下茎の挙動を観察するとともに遺伝子(CleLSH10、 ClePHOT1など)の発現量変化を調べ、地下茎伸長に対する光の影響を検証する。 (4)2020年度と同様の土壌条件で栽培実験を行い、再現性を検証した上で、地下茎の伸長と防御応答に対する土壌環境の影響を検証する。また菌叢解析の結果と関連付けることで、地下茎と土壌微生物の相互作用に関する知見をまとめる。
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Causes of Carryover |
コンロンソウ開花期における自粛と移動制限により、十分な調査とサンプル採取(採り直しを含む)が実施できなかったため、一部の栽培実験が正確に行えなかった。12-1月の降雪のため、冬期のサンプル量が少なく、RNA-seqを実施できなかった。 また学会等がオンライン開催になったことで、旅費を使用しなかった。
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Research Products
(4 results)