2019 Fiscal Year Research-status Report
精神疾患関連遺伝子から探る現生人類における社会の変化・発展の遺伝的基盤
Project/Area Number |
19K06866
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
早川 敏之 九州大学, 基幹教育院, 准教授 (80418681)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
颯田 葉子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20222010)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 人類進化 / 精神疾患 / 進化医学 / 脳 / 社会 |
Outline of Annual Research Achievements |
精神疾患は高度な精神活動にもとづく社会性の障害である。精神疾患の中でも統合失調症や双極性障害は、遺伝リスク因子(発症リスクに関わるSNP)と環境リスク因子(特に社会・文化の変化に起因する心理社会的ストレス)の相互作用で発症リスクが決まる。このため、それら精神疾患の発症リスクに関わるSNPの非リスク型に働く正の自然選択は、心理社会的ストレスへの適応とみられる。そこで本研究では、それら精神疾患の発症リスクに関わる遺伝子を対象に、非リスク型に働く正の自然選択を示す遺伝子を同定し、その後それらの進化を調べることから、“社会・文化の変化・発展の遺伝的基盤としての心理社会的ストレスへの適応”を検証する。 本年度は、対象遺伝子の非リスク型に働く正の自然選択の検出を開始するとともに、対象遺伝子の霊長類における進化の検討をはじめた。これまでのところ、複数の遺伝子に選択が検出されてきている。また、我々が最初に非リスク型に働く正の自然選択を検出したST8SIA2遺伝子において、旧人では選択の見られた非リスク型とは異なるタイプが同定されるとともに、旧人のタイプが旧人との交雑によって現生人類へ移入していることが分かった。旧人との交雑が非リスク型に働く正の自然選択よりも前に起こっていることから、旧人との交雑では適応が必要となるほどの心理社会的ストレスは生じていないと考えられる。このため旧人との交雑は、現生人類の社会や文化に変化をもたらすものではなかったとみられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、統合失調症と双極性障害の双方の発症リスクに関わるSNPをもつ遺伝子群を対象に3つの課題に取り組むこととしている。そのうちの1)対象遺伝子の非リスク型に働く正の自然選択、2)対象遺伝子の霊長類における進化については、本年度より開始し、複数の遺伝子にて正の自然選択を検出するとともに、旧人に関する解析も進んでおり、計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
課題1)と2)を継続し、発症リスクに関わるSNPの非リスク型に働く選択を検出するとともに、対象遺伝子の霊長類における進化を検討する。また次年度より、3)選択の働くSNPの機能についても解析を始めることとしている。
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Causes of Carryover |
本年度、新たに統合失調症のリスクに関わるSNPがGWAS解析により報告された。このため、これらSNPが存在する遺伝子に本研究にて解析対象とすべきものがあるか否かの検討が必要となった。このような事態は今後起こりうると想定されたため、少なくとも現状リストされている遺伝子について自然選択検出のための解析を早急に進めるべきと判断した。このように、当初予定しているよりも解析を重点的に進めたため、次年度使用額が生じた。これは研究を拡張的に行い、研究目的を十全に果たすうえで益をなす使用時期の変更である。
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Research Products
(6 results)