2023 Fiscal Year Annual Research Report
Adaptive strategy of post-prime adult male chimpanzees
Project/Area Number |
19K06867
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Research Institution | Kamakura Women's University |
Principal Investigator |
保坂 和彦 鎌倉女子大学, 児童学部, 教授 (10360215)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | チンパンジー / 壮年期 / 老年期 / オトナ雄 / 同盟形成 / 孤児 / 養子取り / 狩猟 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、マハレ山塊国立公園(タンザニア)M集団の成熟雄チンパンジー約10頭を対象に個体追跡による行動観察を行い、壮年期を過ぎて老年期に移行していく雄が加齢に伴う身体的・社会的衰退にどのように適応しているかを縦断的かつ横断的に探ることである。 最終(2023)年度は、4年ぶりに現地調査を遂行した。残念ながら継続観察を予定していた最高齢ファナナ(推定43歳)を含む3頭の個体追跡対象個体が2021年度に病死(推定)していたが、その他の対象個体の観察をおこなうことができた。 1年目(2019年度)の野外調査時にアルファ雄であったプリムスはすでにアルファの地位を少壮期雄テディ(21歳)に奪われ、同年齢(32歳)で元ベータ雄のオリオンとともに低順位雄となっていた。プリムスとオリオンは、同年齢で乳児の頃からよく遊ぶ関係であったが、本研究の年齢区分で壮年期から後壮期に移行した現在は、特に2頭間での関係が強いという証拠は得られなかった。現在のところ加齢に伴う身体的衰退は2頭ともに見られないが、再び高い社会的地位を取り戻すための示威ディスプレイや同盟形成行動は見られなかった。したがって、プリムスはアルファの地位を陥落してからも政治的相互作用に深く関わった一部の元アルファ雄とは異なり、「低リスクな壮年期後の生活」を送る生存戦略を選択したことが示唆される。一方、本研究で検証しようとしている父性仮説との関連で興味深い観察成果があった。7月に母を失ってまもない孤児ヌル(3歳雄)がM集団の遊動集団に合流し、プリムスとオリオンが擬似的な母性行動を示した。ヌルを背中に乗せて運搬するのが観察された成熟雄はこの2頭だけである。今後、ヌルと近接する時間が長いオリオンとの間に擬似的な親子関係が構築されれば、マハレでは雄が養子取り(adoption)をした初の事例となる。今後も調査を継続する必要がある。
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