2019 Fiscal Year Research-status Report
遅延報酬を我慢して待つための意思決定から行動制御に至る神経基盤の解明
Project/Area Number |
19K06882
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
村上 誠祥 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (00831025)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 意思決定 / 行動タイミング / 高次運動皮質 / 歩行誘発野 / 神経回路 / 電気生理学 / 光遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
より多くの報酬・富を得るために、数ある選択肢の中から適切な行動を適切なタイミングで遂行していくことは、脳の重要な機能の一つである。これまでの研究により、互いに神経連絡を持つ複数の脳領域が行動選択時の意思決定に関与していることが示唆されてきた。しかし、それらの脳領域での意思決定に関わる神経活動が、最終的にどのように行動出力を制御するのか、その神経メカニズムは明らかになっていない。これを明らかにするため、本研究では、電気生理学的手法、光遺伝学的手法、ウィルストレーシング法を組み合わせ、意思決定に関わる脳領域から行動出力領域へと伝達される神経活動を記録し、また活動操作する。 令和元年度はまず、頭部固定マウス用の意思決定課題を確立した。この行動課題ではマウスは、すぐに得られる少量の報酬を取りに行くか、動かずに待ち大量の遅延報酬を得るかの選択にせまられる。この課題をマウスが習得でき、大量の報酬を数秒から数十秒待ち続けられること、また遅延報酬の大きさを操作するとマウスの待てる時間や遅延報酬まで待ち続けられる試行の割合が変化することが明らかになった。 この行動課題は、トレッドミル上で歩き出す、歩かないといった歩行運動を行動出力とした意思決定課題である。歩行・走行の行動出力に関連する脳部位を同定するために、光遺伝学的手法を用いて中脳や延髄の様々な脳部位を人工的に活性化させたところ、いくつかの脳部位で歩行・走行が誘発された。今後は上記の意思決定課題を用いて、意思決定関連領域がどのように、これらの歩行誘発領域の活動に影響を与えることで、適切な意思決定の制御が行われるのか調べる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
様々な脳領域で報告されている、意思決定に関与する神経活動が最終的にどのように行動出力を制御するのかを調べるために、令和元年度はまずマウスを用いた意思決定課題を確立した。特に、行動課題中に複数領域からの大規模同時神経活動記録や光遺伝学を用いた活動操作を組み合わせられるため、頭部固定マウスを用いた行動課題を採用した。この行動課題では、マウスがすぐに得られる少量の報酬を取りにいかず、トレッドミル上でじっとしているとランダムな遅延の後に大量の報酬がもらえる。マウスが大量の報酬を数秒から数十秒間待ち続けられることが明らかになった。また遅延報酬の大きさを操作したところ、遅延報酬の大きい試行ではマウスの待ち時間と諦めずに待てる試行の割合が増加することが明らかになった。つまり、将来得られる報酬の量に従い、マウスが適応的に意思決定を行っていることが明らかになり、それを定量的に評価できる行動課題を確立したといえる。 本研究では意思決定に関わる神経活動が最終的にどのように行動出力を制御するか、その仕組みを明らかにすることを目的とする。そのため、上記の意思決定課題で用いる行動出力である歩行運動に関連する脳領域を同定する必要がある。光遺伝学的手法を用い、中脳や延髄の様々な脳領域の神経細胞を局所的に活性化させたところ、いくつかの領域で歩行・走行を誘発することに成功した。 このようにプロジェクトは概ね順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度は、意思決定と関連する様々な領域がどのような神経活動を用いて、中脳や延髄の歩行誘発野を制御することで行動選択が行われているのか調べる。特に、①意思決定関連領域の様々な神経活動のうちどのような活動が下流の歩行誘発野へ送られるのか、②異なる意思決定関連領域から送られる信号に違いはあるのか、に着目して調べる。このために、光遺伝学的手法、ウィルストレーシング法、電気生理学的大規模神経活動記録法を、意思決定行動課題に適用し、意思決定関連領域から中脳・延髄の歩行誘発領域へ送られる神経活動を記録する。これにより、様々な脳領域の協調により、行動選択が制御されるロジックに迫る。
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Causes of Carryover |
(未使用額が発生した状況) 行動課題開発にあたり、報酬の大きさの操作や遅延報酬までの遅延時間の操作など様々なバリエーションを試したところ興味深い結果が得られたため、行動実験の種々のパラメータの操作とその解析にフォーカスすることにした。それにより、電気生理実験など、当初、本年度から始める予定だった実験を次年度に遅らせることとしたため未使用額が生じた。 (次年度における未使用額の使途内容) 電気生理実験による大規模神経活動記録を次年度に行うこととし、未使用額はそのための物品購入費などに充てることとしたい。
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