2020 Fiscal Year Research-status Report
ペリニューロナルネットによる機能的なシナプス伝達モジュレーションの解明
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19K06890
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
廣野 守俊 和歌山県立医科大学, 医学部, 准教授 (30318836)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | コンドロイチン硫酸プロテオグリカン / 小脳核 / シナプス伝達 / GABA |
Outline of Annual Research Achievements |
記憶痕跡の形成機構の解明は、単に記憶学習を知るだけではなく、外部環境への適応様式の理解や、精神疾患や脳障害の原因究明にもつながる。ペリニューロナルネット(perineuronal net, PNN)は中枢神経系における細胞外マトリックスであり、一生涯続くような記憶の維持にかかわる構造物である。PNNはシナプス結合を形態的に安定化し、シナプス伝達を長期にわたって一定に保つと考えられている。我々の研究により、PNNが神経終末からの神経伝達物質放出を機能的にモジュレーションすることが示唆された。その機能的モジュレーションの機構を明らかにすることが本研究の目的である。これまで、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)の糖鎖であるグリコサミノグリカン(GAG)の小脳核ニューロンにおける抑制性シナプス後電流(IPSC)に対する作用を調べてきた。近年、PNNがプレシナプスのGABAB受容体の局在を制御する可能性が報告された。この可能性を検証するため、GABAB受容体アゴニストであるバクロフェンによるIPSC抑制を測定し、用量反応曲線を作成している。 動物実験では、目的の脳部位からPNNを除去するためにChABCのインジェクションが用いられてきた。しかし、ChABCの投与は侵襲的であり、非選択的にGAGを分解するためChABCの臨床応用は困難である。そこで本年度は、PNNの密度低下を惹起する非侵襲な方法として自発運動を導入した。またその対極として、慢性拘束ストレスを負荷して、ストレス性痛覚過敏のモデルマウスの作製も行った。このモデルマウスの痛覚過敏は自発運動で緩和されることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GAGがシナプス伝達を機能的にモジュレーションすることによって、記憶・学習を如何に制御するかについてはほとんど分かっていない。我々の先行研究では、GAG除去が抑制性シナプス伝達を増強し、マウス瞬目反射条件づけの学習効率を上昇させることを明らかにした。昨年度までは、PNN構築前の幼若マウスから小脳切片を作製し、小脳核ニューロンへホールセル電位固定法を適用してIPSCを記録し、GAG灌流投与の効果を調べた。CS-6Sは誘発性IPSCの振幅を小さくしたものの、paired-pulse ratioを変化しなかった。一方、CS-4Sは誘発性IPSCの振幅を小さくしたものの、paired-pulse ratioを上昇させた。現時点でこれら硫酸化パターンの影響を統一的に解釈するに至っていない。本年度は、PNNがプレシナプスのGABAB受容体の局在を制御する可能性を検証することを試みた。まずコントロール実験として、GABAB受容体アゴニストであるバクロフェンによるIPSC抑制を記録し、用量反応曲線を作成するため、データの収集を行っている。今後は、小脳切片をChABCで処理してPNNを除去し、その曲線の変化を明らかにする予定である。 また、PNNの密度を低下させる非侵襲な方法を探索している。本年度は、マウスに自発運動をさせるためvoluntary wheel runningを導入した。またその対極として、慢性拘束ストレスをマウスに負荷してストレス性痛覚過敏モデルを作製した。このモデルマウスの痛覚過敏は自発運動で緩和されることも確認した。今後は、これらマウスの小脳核におけるPNNの密度を主にWFA染色によって定量化、比較検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
小脳核の抑制性シナプスにおいてCSのターゲット分子を明らかにする。その第一候補である受容体型チロシンホスファターゼの関与を検証するため、下流のシグナル伝達の阻害剤を各種用いる。また、分解酵素のChABCでGAGを除去した成獣の小脳切片も使用する。さらにHSの抑制性シナプス伝達への寄与も解明する。 一方、小脳核ニューロンにおける興奮性シナプス伝達がPNNによって如何に制御されているか全く分っていない。今後の研究では、小脳核ニューロンへの2つの興奮性シナプス入力である登上線維と苔状線維を電気刺激して興奮性シナプス後電流(EPSC)を記録し、小脳核からのGAG分解除去の効果を検証する。小脳核ニューロンへの興奮性線維末端の大きさや密度がPNN除去によって変化するのか検証するため、免疫組織化学染色法による形態観察を行う。登上線維末端はVGLUT2、苔状線維末端はVGLUT1と2を発現することから、各抗体で染色し、PNN有無で比較する。また小脳核ニューロンからPNN除去の影響を明らかにする。GAG除去による興奮性シナプス伝達への作用を明らかにすることは、小脳運動学習へのPNNの重要性をさらに確かなものにするものと考えられる。 PNNがプレシナプスのGABAB受容体の局在を制御するか否かを検証するため、バクロフェンによるIPSC抑制の用量反応曲線を求め、PNN有無での相違を明らかにする。また、自発運動をさせたマウスと慢性拘束ストレスを負荷したマウスの小脳核でのPNNの密度をWFA染色で比較する。同時に、小脳核のPNNが自発運動の制御に如何にかかわるか検討を行う。さらに、ストレス性痛覚過敏の自発運動による緩和とPNN密度変化との関係を明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響により学会参加の旅費が支出されなかったため。次年度使用する試薬の物品費として、また論文の掲載費として使用する予定である。
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Research Products
(4 results)