2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K06911
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
周防 諭 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (20596845)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坪井 貴司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80415231)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 性差 / C. elegans / 神経伝達物質 / 受容体 / カルシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
行動の性差は動物が効率的に交尾し繁殖するために重要である。しかし、性特異的な行動制御の神経メカニズムについては不明な点が多い。近年我々は、線虫C. elegansではオスは雌雄同体よりも自発的な運動量が多いことを明らかにした。本研究では、この自発運動量の性差を生み出す神経伝達の性差を明らかにすることを目的とする。神経伝達に異常のある変異体を解析することで、運動量の性差に関わる因子を明らかにしている。既に、アミン神経伝達物質がこの制御に関わることを明らかにしている。ドーパミンの欠損株では、運動量の性差が減少しており、ドーパミンがオスでは運動量を増加させ、雌雄同体では減少させる。オクトパミン(無脊椎動物がノルアドレナリンの代わりに持つ神経伝達物質)が、雌雄同体ではドーパミンの下流で働き、運動量を増加させる。セロトニンも、雌雄同体特異的に働き運動量を減少させることを明らかにしている。さらに、TGFβ経路がオスでのドーパミンによる運動量の制御に関わることを見出した。ドーパミン欠損株のオスでは運動量が減少するが、TGFβ変異体のdaf-7では、ドーパミン欠損による運動量の減少が見られなかった。TGFβ経路は運動量に加えて、運動方向変化も制御していた。C. elegansは時々進行方向を変えながら移動するが、オスは雌雄同体より方向を変える頻度が高い。daf-7変異体のオスでは、運動方向変化がさらに上昇しており、この上昇はドーパミン欠損により抑制された。このほかに、多発性嚢胞腎遺伝子のホモログや、配偶子形成に異常のある変異体で、自発運動量の性特異的な制御に異常が見られること明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
野生型のC. elegansでは、オスは雌雄同体よりも自発的な運動量が多い。神経伝達に異常のある変異体を解析し、運動量の性差が減少する変異体を探すことで運動量の性差に関わる因子を明らかにしている。ドーパミン欠損株では、オスでは運動量が減少しており、雌雄同体では運動量が増加している。TGFβ経路がオスでのドーパミンによる制御に関与することを明らかにした。TGFβホモログDAF-7の変異体では、ドーパミン欠損による運動量の減少が抑制されていた。また、DAF-7の下流ではSMADホモログDAF-3が働いていることを明らかにした。雌雄同体においてはTGFβ経路はドーパミンによる制御には影響がなく、TGFβ経路による運動量の制御はオス特異的であることを明らかにした。さらに、TGFβ経路は運動量だけでなく、運動方向の制御にも関与していることを明らかにした。 多発性嚢胞腎遺伝子lov-1とpkd-2は、オスの神経細胞に発現し生殖行動に働くことが明らかになっている。lov-1とpkd-2変異体を解析し、これら遺伝子がオスではドーパミン依存的に、雌雄同体ではドーパミン非依存的に運動量の制御を行うことを明らかにした。従来、lov-1とpkd-2はオスのみで働くと考えられていたが、この結果は雌雄同体においても機能を持つことを示唆している。また、配偶子形成に異常のある変異体で、自発運動量の性特異的な制御に異常が見られ、配偶子からの情報伝達により運動量が制御されること明らかにした。 このように、行動の性差に関わる遺伝子をいくつか明らかにすることができたが、これらの遺伝子がどのような神経回路で働くかについては、計画通りに明らかにできていない。従って、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに、オスではドーパミンが運動量を増加させ、この制御にはTGFβ経路と多発性嚢胞腎遺伝子lov-1とpkd-2が関わることが明らかになっている。雌雄同体では、ドーパミンは運動量を減少させ、この下流ではオクトパミンが働く。また、雌雄同体では、ドーパミンとは独立にセロトニンやlov-1とpkd-2が運動量制御に働く。しかし、これらの因子が作用する神経細胞については、オクトパミンがSIAニューロンに働くこと以外は分かっていない。今後は、これらの伝達物質や受容体の働く細胞を同定していく。このためにまず、これら伝達物質の受容体や下流因子の変異体の解析を行う。さらに、伝達物質や下流因子が働く細胞を細胞特異的レスキュー実験により同定していき、性特異的な行動制御に関わる神経回路を明らかにする。次に、同定した神経細胞に蛍光プローブを導入し、これらの細胞で神経活動に性差が見られるか調べる。SIAニューロンについては、オクトパミンに対する反応に性差が見られることが明らかになっているので、この性差を生み出す因子の同定を行う。さらに、光遺伝学的手法により、SIAニューロンの刺激により行動変化が見られるか調べる。 配偶子形成に異常のある変異体で、運動量制御に異常が見られるということは、配偶子から何らかのシグナルが神経細胞に伝わり運動の制御が起こると考えられる。このシグナルの下流で働く神経伝達物質およびこれらが働く神経細胞を同定する。
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Causes of Carryover |
応募時研究計画では2019年度に45万円程度で線虫行動解析装置を拡充することを予定していた。しかし、交付決定した予算は申請の予算よりも小さいので、この設備を購入すると2020年度以降のイメージング実験や遺伝子解析実験の予算など研究全体を遂行するための予算を十分に確保することが難しかった。従って、実験時間を延ばすことと、実験法および解析用のプログラムを工夫することで現状の行動解析装置で解析することとし、解析装置の拡充を見送った。また、本研究で使用する物品の費用の一部も大学内研究費から支出された。さらに、上述の通り研究がやや遅れたため、今年度はイメージング実験を行っておらず、今年度行った実験は比較的低コストで実施できる行動解析実験が中心であった。その結果、次年度使用額が生じた。これは、2020年度および2021年度に、応募時での計画通りに、イメージング実験や遺伝子解析実験を行うために使用することを計画している。研究の遅れにより生じた分に関しては、2020年度にイメージング実験やその試料作りのための分子生物学実験で使用する。特に、イメージング用のデバイスの作製費が申請時より高騰しているので、計画よりも大きな支出となる。また、所持しているインジェクション装置が不調で、一部の部品の更新を行う必要がある。次年度使用額の一部をこの購入にも充てることを計画している。
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[Presentation] Sexually dimorphic dopaminergic signaling regulates behavioral states of C. elegans2019
Author(s)
Suo, S., Harada, K., Matsuda, S., Kyo, K., Wang, M., Maruyama, K., Awaji, T., Tsuboi, T.
Organizer
International C. elegans Meeting
Int'l Joint Research
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