2021 Fiscal Year Research-status Report
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19K06911
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
周防 諭 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (20596845)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坪井 貴司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80415231)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 性差 / 精子 / 自発運動量 / C. elegans / ドーパミン / 交尾 |
Outline of Annual Research Achievements |
行動の性差は動物が効率的に交尾し繁殖するために重要であるが、性特異的な行動制御の神経メカニズムについては不明な点が多い。本研究は、行動制御の性差とその神経基盤を明らかにすることを目的とする。線虫C. elegansには精子と卵子両方を作る雌雄同体とオスが存在するが、オスは雌雄同体よりも自発的な運動量が高い。自家受精できるために交配相手を探す必要のない雌雄同体は餌から離れずじっとしており、子孫を残すために交配相手を見つける必要のあるオスは餌のある領域の内外を探索するという合理的な性差がこの自発運動量の違いにより生まれる。精子の形成に異常のある変異体を調べた結果、精子を作ることのできない雌雄同体(実質的なメス)は、通常の雌雄同体よりも運動量が増加していることが明らかとなった。精子の作れない変異体とドーパミン欠損変異体の二重変異体を作製し、精子による自発運動量制御にドーパミンが関与するかを調べた。二重変異体はドーパミン欠損変異体と自発運動量に違いがなかった。この結果から、精子による運動量制御にはドーパミンが必要であることが示唆された。 オスは雌雄同体に触れると、尾部を触れたまま雌雄同体の周りを回り、生殖器を探す。この際、雌雄同体が頻繁にオスから逃げることが報告されている。ビデオ撮影と画像解析により、オスが触れた時の雌雄同体の速度変化を測定する系を作製し、野生型と精子形成異常変異体のオス忌避行動を解析した。その結果、野生型はオスが接触すると速度を上昇させるが、精子異常変異体では速度が低下することを明らかにした。このことから、体内の精子がオスからの忌避行動に関与することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
野生型のC. elegansではオスは雌雄同体よりも自発的な運動量が高い。この性差は部分的にドーパミンに依存する。神経伝達に異常のある変異体を解析し、運動量の性差が減少する変異体を探すことで運動量の性差に関わる新たな因子を明らかにしている。TGFβ経路がオスでのドーパミンによる制御に関与することを明らかにした。多発性嚢胞腎遺伝子lov-1とpkd-2は、オスだけでなく雌雄同体で運動量の制御を行うことを明らかにした。従来、lov-1とpkd-2はオスのみで働くと考えられていたが、この結果は雌雄同体においても機能を持つことを示唆している。さらに、精子の形成に異常のある変異体を調べた結果、精子を作ることのできない雌雄同体は、通常の雌雄同体よりも運動量が増加していることが明らかとなった。また、この制御はドーパミンに依存することも明らかにした。精子を作ることができない雌雄同体をオスと交配させ、雌雄同体の体内に精子が供給されると、自発運動量は減少した。以上の結果より、線虫の雌雄同体では体内の精子量により運動量が調節されており、この経路にドーパミンが関わることが示唆された。 交尾のためにオスが雌雄同体に触れると雌雄同体は頻繁にオスから逃げることが報告されている。ビデオ撮影と画像解析により、オスが触れた時の忌避行動を測定する系を作成した。この系を用いた解析により、野生型の雌雄同体ははオスが接触すると速度を上昇させるが、精子形成異常変異体では速度が低下することを明らかにした。このことから、体内の精子がオスからの忌避行動に関与することを明らかにした。 以上のように性特異的行動に関わる因子を明らかにしたり、新しい実験系を確立してオス忌避行動の解析をしたりしたが、その作用の神経メカニズムの解析には至っていない。従って、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果から、雌雄同体の自発運動およびオスからの忌避行動には体内の精子が関与していることが明らかになっている。しかし、生殖器官内にある精子の情報が運動を制御する神経系にどのように伝達され、神経系にどのような変化をもたらすかは不明である。今後は、精子による性特異的な行動変化のメカニズムの解析を行う。既に精子による自発運動の制御にはドーパミンが関わることを明らかにしている。また、ドーパミンによる自発運動制御では、オクトパミンが下流で働き、オクトパミンはSIAと呼ばれる神経細胞で働くことを明らかにしている。精子形成異常変異体とオクトパミン欠損株の二重変異体を作製し試験することで、精子の下流でオクトパミンが働くかを明らかにする。さらに、様々な精子形成異常変異体を試験することで精子の何が行動を変化させるかを明らかにする。また、精子シグナル伝達に関わる因子の変異体を試験し、精子による運動制御に関わる因子を同定する。同定された因子については、細胞特異的レスキュー実験などを行い、これらの因子が働く場所を明らかにして性特異的な行動制御に関わる神経回路を明らかにする。 これまでに、lov-1とpkd-2が雌雄同体ではドーパミン非依存的に運動量の制御を行うことを明らかにしている。従来、lov-1とpkd-2はオスのみで発現するとされていたが、近年の高感度なシングルセルRNA-seq解析では雌雄同体でもいくつかの神経細胞での発現が報告されているので、これらの細胞での機能が関わっているか細胞特異的レスキュー実験で調べる。また、lov-1とpkd-2のタンパク質はオスから放出されるエクソソーム内に存在することが報告されているので、オス由来のタンパク質が雌雄同体の運動量を調節している可能性をオス存在下、非存在下で運動量を測定し検討する。
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Causes of Carryover |
本年度も、新型コロナウイルスの影響で長期間の連続した実験を行うことが困難であった。特に、高コストで規模の大きい実験を連続して行うことができず、低コストな行動実験やパソコンでの画像解析系の開発に時間を費やした。このため、予定通り実験が行われず、次年度使用額が生じた。また、学会もオンラインで行われたので、旅費の支出が全くなかったことも、次年度使用額が生じた理由である。 2022年度は2020、2021年度よりは多くの実験を行うことができると予想され、予定していたような研究費の使用ができると思われる。また、研究の遅れを取り戻すために、一部の実験については実験補助に行ってもらう。さらに、遺伝子発現解析や形質転換株の作製などは受託で行うこととし、このような実験にも次年度使用分を使用する予定である。これによって、予定通りあるいはそれ以上の成果をあげられるように有効に次年度使用分を使用する。
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[Journal Article] Small molecule inhibitors of α-synuclein oligomers identified by targeting early dopamine-mediated motor impairment in C. elegans2021
Author(s)
Chen KS, Menezes K, Rodgers JB, O’Hara DM, Tran N, Fujisawa K, Ishikura S, Khodaei S, Chau H, Cranston A, Kapadia M, Pawar G, Ping S, Krizus A, Lacoste A, Spangler S, Visanji NP, Marras C, Majbour NK, El-Agnaf OMA, Lozano AM, Culotti J, Suo S, Ryu WS, Kalia SK, Kalia LV
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Journal Title
Molecular Neurodegeneration
Volume: 16
Pages: 77
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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