2019 Fiscal Year Research-status Report
小脳における新規神経回路の同定とその生理機能の解析
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19K06926
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
橋本 光広 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (90311357)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 小脳 / 内側傍小脳脚核 / アデノ随伴ウイルスベクター / 光遺伝学 / オレキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
小脳の主な生理機能は、運動機能の調節であるが、多くの研究報告から、運動機能調節とは異なる小脳の生理機能が示唆されている。しかし、その生理機能を担う神経回路は、不明である。研究代表者は、小脳虫部のプルキンエ細胞が、同側の内側傍小脳脚核(別名、内側結合腕傍核)へ直接投射していることを発見した。内側傍小脳脚核は、レム睡眠とノンレム睡眠の切り換え制御する神経核である。この発見は、小脳が知覚と運動機能を統合することによって平衡・筋緊張・随意筋運動の調節を行う機能に加え、睡眠-覚醒サイクルの調節にも関与していることを示唆するものである。実際、小脳虫部の変性を伴う多くの疾患(脊髄小脳変性症など)ならびに小脳虫部の損傷は、睡眠-覚醒サイクルの異常を引き起こし、重度の睡眠障害(睡眠時無呼吸症、不眠症など)を生じることが知られており、小脳が、睡眠-覚醒サイクルの調節に関与していることが示唆されているが、その神経回路ならびに神経システムは、不明であった。本研究では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター・光遺伝学・無線光刺激装置・電気生理学を用い、小脳虫部のプルキンエ細胞から内側傍小脳脚核へ直接入力する神経回路を基盤とする、小脳の新たな生理機能・神経システムの解明を目的としている。 本年度は、本研究を推進するために必要なAAVベクター5種類を作製した。更に、蛍光タンパク質を発現するAAVベクターを用い、小脳に入力する新たな神経回路を発見した。これは、視床下部外側野から、小脳虫部(第IX小葉、第X小葉)・片葉・傍片葉のみへの神経入力であり、オレキシン陽性神経入力であることが判明した。オレキシンは、睡眠ー覚醒サイクルの制御に関与する重要な神経ペプチドである。このことから、小脳と睡眠ー覚醒サイクルの調節の神経回路基盤の全容が明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究室では、アデノウイルスベクターの作製・精製ができるが、更に、アデの随伴ウイルスベクター(AAV)を作製・精製できるよう、超遠心ローター(中古)を購入し、AAVベクターの作製・精製を本研究室で可能とした。これによって、本研究課題を遂行するためのAAVベクターを5種類を作製した[AAV2retro-EF1a-mCherry-IRES-NL-Cre, AAV10-EF1a-mCherry-IRES-NL-Cre, AAV10-CAG-Flex-C1V1(t/t)-ts-EYFP, AAV10-CAG-Flex-eArchT3.0-EYFP, AAV2retro-CamKII-hChR2(ET/TC)-EYFP]。これらのAAVベクターをマウス脳に注入し、各AAVベクターが設計通り機能していることを確認した。 頭上と側方からの長時間ビデオ撮影装置(自家製)・脳波と筋電計測プレアンプ(自家製)を作製し、動物の行動解析を行う事を可能とした。 AAVベクターを用いて、蛍光タンパク質でラベルした小脳プルキンエ細胞・内側傍小脳脚核の神経細胞を単離・回収する実験装置を作成し、蛍光タンパク質でラベルされた神経細胞の単離・回収を可能にした。更に、単離した神経細胞から、シングルセル解析ができるよう、次世代シークエンサー用の試薬をそろえ、実験環境を整えた。次世代シークエンサーは、本学にある共同利用研究機器が使用できるようにした。 AAVベクターを用いて、視床下部外側野から、小脳虫部・片葉・傍片葉に入力する新たな神経回路を同定した。この入力は、オレキシン陽性の神経入力である。
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Strategy for Future Research Activity |
作製したAAVベクターを内側傍小脳脚核と小脳虫部にそれぞれ注入し、小脳プルキンエ細胞から内側傍小脳脚核の神経細胞への直接投射経路特異的に、チャンネルロドプシン2やアーキロドプシンを発現させる。更に、この神経回路特異的にチャンネルロドプシン2やアーキロドプシンを発現させたマウスの頭蓋上に、当方が作製して論文報告した小型・無線光刺激装置を留置し、無麻酔下において光刺激を行い、動物の行動変化を、長時間ビデオ撮影ならびに脳波・筋電計測によって解析する。
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Causes of Carryover |
科研費が国民の税金であることを鑑み、できるだけ安く・必要最小限の数量購入を心がけている。その結果、次年度使用額が発生した。発生した次年度使用額は、物品費としてし年度使用する。
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Research Products
(10 results)