快・不快の味覚反応と相関のある活動を示し、さらにその反応を誘導する神経機構の解明

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 19K06938
• Research Institution: Tokyo Medical and Dental University
• Principal Investigator: 田中 大介 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (90456921)
• Project Period (FY): 2019-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: 味覚 / 不快反応 / 嫌悪反応 / 快 / 化学遺伝学 / カルシウムイメージング / 光シート顕微鏡

Outline of Annual Research Achievements

マウスにおける快・不快の味覚反応(快・不快反応)を利用して、快・不快反応の神経基盤を解明することで、ヒトにおける快・不快経験の理解を深めることができると期待される。本年度は、まず、昨年度までの研究で同定された、不快反応と相関のある活動を示す細胞が多く見られた脳領域について、その因果的効果を化学遺伝学的手法に加えて、光遺伝学的手法を用いて、さらに詳細な解析を行った。その結果、当該領域の細胞の活動は、不快反応を誘導するには不十分であるが、摂水行動を抑制するには十分であることが示唆された。さらに当該領域の細胞の活動をカルシウムイメージングを用いて測定したところ、不快反応と相関のある活動を示す細胞が観察された。これらのことより、当該領域の細胞の一部は少なくとも不快反応と相関のある活動を示し、また、自然状態で不快反応と併発されることが多い摂水抑制に因果的に関わっていることが示唆された。次に快反応について、脳の透明化条件と光シート顕微鏡を用いた観察・記録・解析系を用いて全脳解析を進め、快反応と相関のある活動を示す神経細胞を半球全域に亘って単細胞レベルの解像度で同定した。結果、前脳の複数の脳領域で細胞が増加していた。また、絶水状態と関係することが知られている神経細胞群を起点として機能的投射先探索にも着手した。当該神経細胞群を化学遺伝学的手法によって人為的に活動させたところ、一部の脳領域において快反応や摂水行動が誘導された。また、当該神経細胞群の投射先を、化学遺伝学で用いる人工受容体hM3Dqに融合している赤色蛍光タンパク質mCherryの発現を利用して解剖学的に調べたところ、快反応が誘導された個体において特異的な投射が観察された。これらのことより、当該領域の、絶水時に活動する細胞は、快反応の誘導に関わっており、特徴的な投射パターンを示していることが示唆された。

Current Status of Research Progress

1: Research has progressed more than it was originally planned.

Reason

本年度は、まず快反応について、昨年度と同様、脳の透明化条件と光シート顕微鏡を用て全脳解析を進め、相関のある活動を示す神経細胞を半球全域に亘って同定していく予定であった。予定通り、快反応と相関のある活動を示す細胞の観察と記録、解析を進め、特定の脳領域を同定することができた。また、絶水状態と関係することが知られている神経細胞群を化学遺伝学的手法によって人為的に活動させた時の快反応や摂水行動への影響を調べ、さらに、当該神経細胞群の投射先を、化学遺伝学で用いる人工受容体hM3Dqに融合している赤色蛍光タンパク質mCherryの発現を利用して解剖学的に調べる予定であった。予定通り、当該神経細胞群を化学遺伝学的手法によって人為的に活動させたところ、一部の脳領域において快反応や摂水行動が誘導されることを見出した。また、当該神経細胞群の投射先を、hM3Dqに融合している赤色蛍光タンパク質mCherryの発現を利用して解剖学的に調べたところ、快反応が誘導された個体において特異的な投射を見出すことができた。また、不快反応については、候補となった神経細胞を、化学遺伝学的手法を用いて人為的に活動させた時の不快反応および絶水時の摂水行動への影響を調べ、また、不快反応と神経活動の相関をより高い時間解像度で調べるために、可能であれば候補となった神経細胞のカルシウムイメージングに挑戦する予定であった。結果、当該領域の細胞の活動は、不快反応を誘導するには不十分であるが、摂水行動を抑制するには十分であることが示唆された。さらに当該領域の細胞の活動をカルシウムイメージングを用いて測定したところ、不快反応と相関のある活動を示す細胞が観察された。以上のことより、予定していた実験は全て行うことができ、また、可能であれば挑戦したいとしていた事項にも挑戦し、一定の成果を得ることができた。

Strategy for Future Research Activity

次年度は本研究の最終年度である。従って、研究計画調書の内容、すなわち”マウスにおける快反応もしくは不快反応と相関のある活動を示す神経細胞を、脳全域に亘って単細胞レベルの解像度で同定し、さらに、同定された神経細胞に加え、申請者らがこれまでに同定した不快反応と相関のある活動を示す神経細胞について、化学遺伝学的手法を用いて、それら神経細胞の活動の、快・不快反応に対する因果的効果を明らかにする”ことを完遂できるよう、一つ一つの実験を確実に進めていく。まず快反応について、本年度に脳の透明化条件と光シート顕微鏡を用いて同定した、快反応と相関のある活動を示す脳領域の神経細胞について、化学遺伝学的手法によって人為的に活動させた時の快反応や摂水行動への影響を調べていく。また、本年度に同定した、化学遺伝学的手法によって人為的に活動させることで快反応を誘導することが明らかになった脳領域の細胞群について、その投射先の脳領域で快反応と相関のある活動を示す細胞がいるかを確認する。存在していた場合、それら細胞を活動させた時に、快反応が誘導されるかを調べる。次に不快反応について、研究計画調書を超える内容ではあるが、本年度挑戦した、不快反応と相関のある活動を示す領域の細胞の活動のカルシウムイメージングを継続し、さらに解析方法を工夫することで、当該領域の神経細胞群の活動と不快反応の時間的相関関係を詳細に解析する予定である。並行して、脳の透明化条件と光シート顕微鏡を用いて、不快反応と相関のある活動を示す脳領域の神経群として同定されたが、本年度はまだその機能解析をしていない複数の脳領域の細胞群について、本年度と同様に化学遺伝学的手法を用いて人為的に活動させた時の不快反応および絶水時の摂水行動への影響を調べる。ここまでの実験により、計画していた実験は全て完了する予定である。

Causes of Carryover

納入業者の割引キャンペーンなどにより、当初の予定よりも安く商品を購入できたため。次年度に、当初の予定よりも商品が値上がりしていた場合などに使用する。