2019 Fiscal Year Research-status Report
新規シナプス御機構:細胞外イオン濃度の活動依存的変化が果たす機能的役割の解明
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19K06945
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
荒井 格 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (00754631)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松田 恵子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (40383765)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 小脳 / デルタ型グルタミン酸受容体 / 細胞外カルシウム濃度 / 長期可塑性 / 小脳性運動学習 / Dセリン / シナプス伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
小脳平行線維(PF)―プルキンエ細胞(PC)シナプスに局在するδ2型グルタミン酸受容体(GluD2)のリガンド結合領域(LBD)近傍にはCa2+結合部位があり、GluD2のリガンド(Dセリン)との親和性に影響を及ぼすことが知られている。GluD2にDセリンが結合するとPF-PCシナプスで長期抑圧(Dセリン-LTD)が誘導されるが、本研究ではこのDセリン-LTDが、活動依存的に変化する細胞外Ca2+によって及ぼされる影響を明らかにし、新規シナプス制御機構の解明を目指す。 本年度は、先端モデル動物支援プラットフォームの支援を受けて作成した2種類のノックインマウス(GluD2のLBD近傍に一点変異を加えてCa2+結合能を阻害したマウス、sKIマウスと、二点変異を加えて常時Ca2+結合状態を模倣したマウス、dKIマウス)を使った行動学的実験及び、電気生理学的実験を行った。 小脳において、細胞外のDセリン濃度は発達とともに減少する。小脳性運動学習では視運動性眼球運動(OKR)等がよく使われるが、幼若マウスでは開眼前後であり、実験遂行が困難である。そこで、Dセリン分解酵素を欠落した(DAO homo及びhetero)マウスと上記KIマウスを交配することで成獣でも行動学的実験が比較的容易に遂行できる系を確立した。現在、既に実験を開始し、予備的なデータを得ている。 また、KIマウスを使った電気生理学的実験も行った。dKIマウス小脳から急性スライス標本を作製し、PCからホールセルクランプ法により膜電流応答を記録した。Dセリン-LTDの誘発刺激を与えたところ、sKIマウスでは野生型に比べてLTDの程度が促進され、dKIでは抑制される傾向を示した。この結果は、Dセリン-LTDがGluD2のLBD近傍にあるCa2+結合部位を介して細胞外Ca2+濃度の影響を受けることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小脳の急性スライス標本を使った電気生理学的実験では、GluD2のLBD近傍に変異を導入した2種類のKIマウスを使った実験で期待通りの結果を得ることができた。すなわち、sKI(Ca2+の常時結合状態を模倣した変異で、GluD2のDセリン親和性を上げる)ではDセリン-LTDが亢進し、dKI(Ca2+の結合を阻害した変異で、GluD2のDセリン親和性を下げる)では抑制された結果を得ることができた。行動学的実験では、当初予定していた幼若マウスを使った実験の難易度が高いことが分かり、それぞれのKIマウスをDセリン分解酵素DAOを欠損したマウスと交配することで成獣マウスを使った実験に切り替えることを決断した。交配に時間が必要であることから、当初計画していたほどの実験は遂行できなかったが、現在、DAO homo/heteroをbackgroundとしたKIマウスが生まれてきており、次年度以降、行動学的実験を本格的に遂行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
DAO backgroundのKIマウスを使った行動実験を本格的に稼働させる。この実験を通して、GluD2を介したDセリン-LTDの細胞外Ca2+濃度依存性が持つ機能的役割が個体行動レベルで明らかにすることを目指す。 GluD2のDセリンに対する親和性は、細胞外Ca2+濃度に依存するが、それはDセリン濃度との相対的な関係によって決まる。例えば、sKIマウスではGluD2のDセリン親和性は野生型と比べて高いことが期待されるが、そもそもDセリンが高濃度に存在すれば、sKIと野生型でDセリン-GluD2シグナリングに差を見出しにくい可能性がある。そのため、本研究ではDAOについて、野生型、homoに加えてheteroの3者を用意し、細胞外Dセリン濃度が異なる3つの環境を作り出す。 同時に、これらのマウスを使った電気生理学的実験も行い、実際にDセリン-LTDについて野生型との間に差が見られるかも確認する必要がある。 電気生理学的実験については、KIマウスだけでなく、野生型マウスを使った実験も行い、生理的条件下における細胞外Ca2+濃度変化の、Dセリン-LTDに及ぼす影響を明らかにする。 これらの実験を通して次年度は、小脳における活動依存的な細胞外Ca2+濃度変化がDセリン-LTDに及ぼす影響の生理的意義を小脳局所回路内だけでなく、個体行動レベルで解明することで、シナプス伝達の新規制御機構(細胞外イオンによるシナプス後細胞に発現する膜タンパク質を介した直接的な制御機構)を明らかにすることを目指す。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画を見直し、電気生理学的実験の今年度研究計画に占める割合を減らし、行動学的実験の占める割合を増やした。その結果、当初電気生理学的実験に使用予定であった諸々の消耗品費の一部を使用する必要がなくなり、当該助成金が発生した。これについては、次年度分として請求した助成金と合わせて使用する予定である。具体的には、電気生理学的、行動学的実験に必要な動物、その飼育資材、また実験に必要な試薬等の消耗品の費用を拡充する予定である。
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