2020 Fiscal Year Research-status Report
Effects of molecular hydrogen on ischemic brain injury
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19K06960
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
梶村 眞弓 慶應義塾大学, 医学部(日吉), 教授 (10327497)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菱木 貴子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (10338022)
久保 亜紀子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (50455573)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 分子状水素 / 脳虚血 / エネルギー代謝 / 質量分析イメージング / Neurovascular coupling |
Outline of Annual Research Achievements |
脳梗塞は重篤な後遺症を残し、患者のQOLは極めて不良である。 現在有効性が証明されている血栓溶解療法(t-PA)は適応が極めて限られており、多くの症例において十分な治療が行えないため、新規の治療法の開発が急務である。 2007年に, 水素ガスの吸入が脳梗塞後の神経機能障害を著明に改善することがモデルマウスで示されてから既に10年を経た。しかし, 水素ガスの受容体・情報伝達機構と生理作用との因果関係の分子機序は手付かずの状態であり, 臨床応用を展開するにあたり大きな障壁となっている。本研究は, 脳虚血病態における水素ガスの標的分子・受容機構を探究し, 分子状水素によるエネルギー代謝の代償機転の機序を解明することを目的とする。ガス分子は, 高分子の構造内に比較的容易に浸透し, リドックス感受性ナノトランスデューサーである金属原子への配位結合や, 官能基への特異的な結合を介して標的分子の機能を修飾し, 生物活性を発揮する。ガス分子の作用は, 可逆的・即効的で、かつ 多元的な標的をもつことを特徴とする。それ故に, ガスとその受容体が時間的・空間的に複雑な相互作用を形成する生体内において, ガス分子の生成・受容及び情報伝達機構と生理作用との因果関係は十分に立証されていない。最大の障壁は、ガス受容体の探索・代謝制御における役割を系統的に解析する方法の欠如である。この問題を以下のアプローチにより解決する。第一に、複数の生成・受容系を包括的に解析するメタボローム実験系, 第二に、ガス分子の標的を代謝物のin vivo-profilingにより空間的・定量的に探索する定量的質量分析イメージング法である。これまでのin situの系では捉えにくかったガスリガンドとセンサー蛋白の相互作用を、直接的に構築し、「水素吸入がなぜ効くのか」の分子基盤を徹底的に解析し、臨床医学研究への橋渡しを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子状水素で特異的に作動するレセプタの分子実体を洗い出すため、リライアブルかつ再現性のある実験系が構築できた。虚血開始後すぐに1.3%水素/空気混合ガスを吸入させた。 虚血30分で再灌流し、その後60分継続して1. 3%水素混合ガスを投与した。 以後2週間にわたって、機能評価を行った。 その結果、水素ガス吸入療法が最も顕著な効果を示したのが以下の3項目である; (1)梗塞巣の縮小、(2)neurological scoreの正常化、(3) corner test によって判明した左片感覚性失調の正常化(当該マウスは、左片麻痺のため左片感覚性運動失調を呈するが、corner testによる右回転の割合が、水素投与により顕著に減少した)。 Hanging wire testやrotarodによる運動機能テストの結果も良好であり、水素の作用機序を検討するモデル系として適切であると判断した。代謝解析を進めるにあたりまず時間軸を、MCAO後30分、再灌流後60分の2点に限定し、Non-targeted analysis であるmetabolomeを行った。虚血の度合いに呼答して惹起される代謝リモデリングを水素投与群と対照群で比較した。その結果、水素ガスをリガンドとするレセプタ候補分子が数個見い出せた。
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Strategy for Future Research Activity |
定量的質量分析イメージング法を武器に、皮質、海馬、基底核などの解剖学的な領域、あるいは、コア、ペナンブラといった血流低下に伴った虚血病態に特異的に形成される領域で惹起される代謝リモデリングを、in situで経時的に解析する。低分子代謝物や細胞内メディエータの時空間的な偏在・定量情報・機能(「いつ、どこで、どれくらい、どのようにはたらくか」)を捉えることで、水素ガスがどの酵素の活性を修飾するのかを探り出す。また、洗い出された水素ガス感受性候補酵素の精製酵素標品を用い、in vitroで水素ガスの効果を検証し、虚血時のredox managementをはじめとする代償機転の分子機構の糸口としたい。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により参加を予定していた学会がオンライン開催になり、旅費が未使用に終わったこと。また、特に年度始めから夏にかけては、Wetの実験自体に費やす時間が減ったことにより、予定していた消耗品費に達さなかった。今年度は標的タンパク質候補の水素分子による活性調節の生化学解析のため精製酵素標品を購入する予定である。さらに代謝物のin vivo imaging を施行するための、matrixや導電性スライドガラス等の購入を予定している。
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Research Products
(2 results)
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[Journal Article] Hydrogen Gas Inhalation Attenuates Endothelial Glycocalyx Damage and Stabilizes Hemodynamics in a Rat Hemorrhagic Shock Model2020
Author(s)
Tamura T,Sano M,Matsuoka T,Yoshizawa J,Yamamoto R,Katsumata Y,Endo J,Homma K,Kajimura M,Suzuki M,Kobayashi E,Sasaki J
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Journal Title
Shock
Volume: 54
Pages: 377-385
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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