2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of new drug delivery systems utilizing covalent dynamic bonds between boronic acids and cell surfaces
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19K07015
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Research Institution | Josai University |
Principal Investigator |
江川 祐哉 城西大学, 薬学部, 准教授 (90400267)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | インスリン / ボロン酸 / 刺激応答性 / ドラッグデリバリーシステム / 血糖値応答性 / 過酸化水素応答性 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度には、「ボロン酸の動的共有結合を切断する刺激応答性製剤」として以下の検討を実施した。ボロン酸誘導体としてボロン酸フェニルメトキシカルボニル(BPmoc)基を用い,これをインスリン(Ins)のアミノ基に修飾した。BPmoc修飾Ins(BPmoc-Ins)の構造確認には質量分析計(MALDI-TOF MS)を用い、一分子のInsに対しBPmoc基が3つ修飾されていることを確認した。 BPmoc-Insおよび溶解補助剤としてγ-シクロデキストリン(CyD)を含む水溶液を注射液とし、これを糖尿病モデルであるGoto-Kakizaki(GK)ラットに投与しても、血糖値降下作用は見られなかった。これはBPmoc基修飾によってInsの活性が低下した、あるいはBPmoc基のボロン酸部位が細胞表面糖鎖と結合し、BPmoc-Insの血中への移行が抑制されたものと考えられた。 BPmoc-Ins、γ-CyDと同時にグルコースオキシダーゼ(GOx)をGKラット投与したところ、血糖値降下作用が見られた。これはGOxが生体のグルコース(Glc)を酸化すると同時に過酸化水素が発生し、その過酸化水素がBPmoc基の脱離反応を引き起こし、Insが再生したためと考えられた。 GOxおよびGlc共存下、BPmoc-InsのInsへの変換をin vitroで評価する方法として高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた。糖尿病と診断される濃度の20 mM Glc共存下ではBPmoc-Insが消失しInsへ変換するのに対し、正常血糖値の下限に相当する5 mMのGlc濃度では、BPmoc-Insの残存が見られた。以上から、BPmoc-InsからInsへの変換はGlc濃度依存的であり、BPmoc-InsとGOxの組み合わせによる血糖値応答性製剤の可能性を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの検討において得られたBPmoc-Insの調製方法、注射液製造方法、血糖値応答性製剤としてのin vivo、in vitroの評価方法に関する知見を以下に示す。 BPmoc-Insの調製には、BPmoc基とN-ヒドロキシスクシンイミドからなる活性エステルをInsのアミノ基に反応させることが有効であった。得られたBPmoc-Insを注射液にしようとしたが、BPmoc-Insは未修飾Insと同様に水への溶解度が低かった。未修飾Insは低いpHで溶解し中和することで中性水溶液を調製できるが、この手法はBPmoc-Insには有効でなかった。種々、添加物を試したところ環状オリゴ糖であるγ-CyDがBPmoc-Insを溶解するのに有効であり、γ-CyDによる包接が溶解に関与していることが示唆された。 血糖値測定法では、2017年から市販されているフラッシュグルコースモニタリングシステム(FreeStyleリブレ)を用いた。これは本来ヒト用であるが、ラットの後頭部から背部にかけ剃毛し、そこにセンサーを装着させて、リーダーで血糖値を読み取ることが可能であった。血糖値降下作用を評価するには糖尿病モデルのGKラットが適していた。GKラットを用いることで、血糖値の変動域が大きくなり、血糖降下作用を評価しやすい利点があった。 in vitroでGOxおよびGlc共存下、BPmoc-InsがInsへ変換する様子はHPLCで評価可能であった。InsとBPmoc-Insを別々のピークとして観察し、それらの面積を比較することでBPmoc-InsのInsへの変換の程度を評価できた。 今後、これらの手法を用いて「ボロン酸の動的共有結合を切断する刺激応答性製剤」として血糖値応答性製剤の検討を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には血糖値応答性製剤に適したIns誘導体を探索することを一つの課題とする。BPmoc基の類似構造を用いて活性エステルを調製し、これをInsへ修飾することを試みる。また、これまでのBPmoc-InsはBPmoc基が3つ修飾されたものであったが、この修飾数を変えることも検討する。これらBPmoc-Insの類縁体を用いた検討から、血糖値応答性製剤により適したIns誘導体の情報を得る。 また、注射液におけるBPmoc-InsとGOxの濃度は、いずれも0.1 mg/mLとしてきたが、その濃度の妥当性について検証する。BPmoc-Ins、GOxの濃度を変えた場合のBPmoc-InsからInsへの変換速度をHPLCを用いて測定し、各濃度の最適化を検討する。 さらに、BPmoc-Insのボロン酸が細胞膜糖鎖と動的共有結合を形成するか調査する。2019年度にはボロン酸と細胞との動的結合を評価できる赤血球を用いた方法を確立したが、これをBPmoc-Insにも適用する。BPmoc-Insは複数のボロン酸残基を有するため、BPmoc-Ins一分子が複数の赤血球と相互作用すれば、赤血球を凝集するものと予想される。ここにBPmoc基を脱離させる過酸化水素を加えることで、赤血球凝集が解消されることも予想される。この検討によりBPmoc-Insと細胞糖鎖による動的共有結合形成およびその切断の様子を観察できる。また、細胞糖鎖モデルとして高分子を修飾した界面を用い、界面へのBPmoc-Insの吸着およびInsへの変換を伴う脱着の様子を水晶振動子ミクロバランス法を用いて観察する。これらの検討を通して、ボロン酸の細胞に対する動的共有結合を利用したDDSへの可能性について議論する。
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