2020 Fiscal Year Research-status Report
単一生細胞内ミトコンドリア質量分析法の開発とミトコンドリオミクスの実現
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19K07028
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
水野 初 静岡県立大学, 薬学部, 准教授 (30457288)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 崇光 静岡県立大学, 薬学部, 客員共同研究員 (20382674)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ミトコンドリア / メタボロミクス / 質量分析 / 1細胞分析 / 誘導体化 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内に存在するミトコンドリア部位を選択的にサンプリングし、代謝物を分析するミトコンドリアオミクスを実現するため、2020年度は1細胞質量分析法によるミトコンドリアの選択的サンプリング方法の開発と、ミトコンドリア代謝物の高感度質量分析法の開発を中心に行った。 共焦点細胞イメージング装置を用いて蛍光染色した細胞内の特定部位をサンプリングするため、先端口径2~3μmのナノスプレーチップを用い、ヒト肝臓がん細胞(HepG2)内のミトコンドリアなどの特定部位の選択的サンプリング法の検討を行った。さらに採取した細胞成分をナノスプレーチップ内で可溶化させるために、可溶化法およびイオン化溶媒への抽出条件の検討を行った。これらの結果、15μmほどの大きさの細胞であればミトコンドリア部位をサンプリングし、再現性良くミトコンドリア成分をイオン化・質量分析することができるようになった。 また、細胞内の微量代謝物を高感度かつ高精度に質量分析するために、夾雑イオンによるイオン化効率の低下やサンプル間のデータのばらつきへの影響について検討した結果、ナトリウムなどの塩に対するイオン化抑制による感度低下やデータのばらつきを防ぐためには、ナノエレクトロスプレーイオン化を用いることに加え、複数の安定同位体標識体を内標準物質によりデータの正規化を行うことが有用であることを見出した。さらに、エレクトロスプレーイオン化の際のインソースフラグメント化メカニズムの影響についても検討を行い、ダイレクト質量分析における分析基盤を整備するとともに、本研究で得られた知見について学会および論文発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、細胞内のミトコンドリアを選択的にサンプリングするためのナノスプレーチップの先端口径の検討、共焦点細胞イメージングによる細胞サンプリングの実施、細胞内成分に対するナノスプレーチップ内での誘導体化法の検討を行った。さらに細胞内に存在する夾雑イオン(NaイオンやKイオン)によるイオン化への影響とその改善方法について検討を行った。これらの研究結果より、細胞内の特定部位の選択的サンプリング方法の開発と、細胞成分を質量分析する際の高感度化、夾雑成分によるマトリックス効果の影響で生じるデータのばらつきの補正法を新たに開発した。 一方、チップ内における簡易的な分離方法や前処理方法については、実際の細胞サンプルへの適用に向けてさらなる検討が必要であるため、2021年度も引き続き研究を続けていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、ミトコンドリア部位を選択的にサンプリングしていることを正確に評価するための、外因性及び内因性マーカー分子を決定する。外因性分子には、共焦点顕微鏡でミトコンドリアを観察するために、本研究で開発したミトコンドリア局在プローブに加え、より質量分析計で高感度検出が可能な蛍光染色試薬の探索・開発を引き続き行う。また、内因性マーカー分子としてミトコンドリア特徴的な脂質として報告があるカルジオリピンに加え、低分子代謝物の選定を行う。さらにサンプリングしたミトコンドリア代謝物をナノスプレーチップ内で誘導体化するとともに、誘導体化生成物を未反応の試薬や夾雑物質とチップ内で分離するための、吸着などによるサンプルのロスが少ない簡易分離法の検討を行い、高感度かつ安定したミトコンドリア代謝物の質量分析を実現する。 これらの研究によって新たに開発した分析法を実際の細胞試料へ適用し、がん細胞内のミトコンドリア代謝動態の解明に加え、薬物処置による細胞障害時におけるミトコンドリア代謝物変化を追跡し、本方法の有用性の検証を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、参加を予定していた国内外の学会の多くがオンライン開催に変更されたため、当初予定していた旅費が必要なくなった。これらの次年度使用額について、今後の成果発表のための学会参加費や、論文執筆のための校正費へと充当する予定である。
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