2019 Fiscal Year Research-status Report
細胞膜タンパク質HAI-1の切断を介した新規細胞間接着とがん転移促進機構の解明
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19K07047
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
東 昌市 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 教授 (10275076)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | MMP-7 / HAI-1 / セリンプロテアーゼ / コレステロール硫酸 / がん転移 / 細胞凝集 / 細胞間接着 / 細胞膜ラフト |
Outline of Annual Research Achievements |
私達はMMP-7により、がん転移が促進されるメカニズムとして、以下のような機序を明らかにしてきた。まず、がん細胞により生合成され、分泌されたMMP-7が、がん細胞の細胞膜成分として存在するコレステロール硫酸と結合する。コレステロール硫酸は細胞膜上のラフトと呼ばれる特殊な脂質組成を持つ領域に存在し、この領域に結合したMMP-7が近傍の細胞表層タンパク質であるHAI-1(hepatocyte growth factor activator inhibitor type 1)を切断することで、がん細胞の細胞間接着を誘導し、細胞凝集を惹起する。また、HAI-1の細胞外領域が細胞間接着の誘導活性に重要であり、細胞間接着を誘導することが示唆されていた。しかし、本年度の研究を進める中でこのHAI-1の細胞外領域による直接的ながん細胞凝集の誘導は弱く、補助的な活性しか持たないことが判明した。一方、いくつかのセリンプロテアーゼ阻害剤により、MMP-7が誘導する細胞凝集が抑制されることから、このメカニズムにセリンプロテアーゼ活性が介在することが示唆された。 本研究の目的の一つはがん転移を効果的に抑制する方法の開発であるが、本年度の研究の中で既に治療薬として使用されているある低分子化合物が、MMP-7の細胞表層コレステロール硫酸との結合を阻害することで細胞凝集を抑制することを見出した。したがって、この化合物あるいはその誘導体はMMP-7によって促進されるがん転移を抑制できる可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
HAI-1細胞外領域による直接的な細胞間接着の誘導は否定的になったものの、セリンプロテアーゼ活性が介在することが示唆され、HAI-1のセリンプロテアーゼインヒビターとしての機能との関連が予想された。そのメカニズムの詳細は今後解明する予定である。 一方、本課題の目的であるがん転移抑制剤の候補が見出されたことも順調に進展している理由と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はMMP-7の作用により活性を獲得し、細胞凝集を誘導するようながん細胞由来セリンプロテアーゼの探索を行うことを計画している。具体的にはMMP-7処理により活性を獲得するセリンプロテアーゼを、細胞凝集抑制する阻害剤を固相化したアフィニティーカラムで精製し、質量分析を用いた解析で同定する。また、HAI-1により阻害されているセリンプロテアーゼの活性がMMP-7によるHAI-1切断に伴い回復し、細胞凝集誘導能を獲得する可能性についても検証する。さらに候補となったセリンプロテアーゼの遺伝子をそれぞれ欠損させたがん細胞を作出し、細胞凝集誘導への関与について検証する。細胞凝集誘導に関わるセリンプロテアーゼが同定できれば、その特異的阻害剤を利用することで、特異的阻害剤の創出が困難であるMMP-7の酵素活性を直接阻害しなくても、MMP-7のがん転移促進作用を特異的に抑制できることが期待される。
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Causes of Carryover |
当初はHAI-1の細胞外領域が直接細胞間接着を誘導することを想定し、その機能部位をアミノ酸レベルでの同定することを計画していたが、本年度の研究の中で、HAI-1細胞外領域は細胞間接着誘導において補助的な役割しか持たないことが判明したため、その部分の研究計画を変更した。このことが次年度使用額が生じた主な理由である。生じた次年度使用額は、より重要と考えられるセリンプロテアーゼ活性を介した細胞間接着誘導のメカニズム解明に使用する予定である。
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