2021 Fiscal Year Research-status Report
細胞膜タンパク質HAI-1の切断を介した新規細胞間接着とがん転移促進機構の解明
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19K07047
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
東 昌市 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 教授 (10275076)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | MMP-7 / HAI-1 / コレステロール硫酸 / がん転移 / 細胞凝集 / セリンプロテアーゼ / エンドサイトーシス / ダイナミン |
Outline of Annual Research Achievements |
MMP-7は種々のがん組織で高発現しているマトリックスメタロプロテアーゼの一種であり、その発現はがん悪性度と高い相関を示す。私達はMMP-7により、がん転移が促進される機序として以下のことを明らかにしてきた。まず、がん細胞により生合成され、分泌・活性化されたMMP-7が、がん細胞の細胞膜成分として存在するコレステロール硫酸と結合する。次にコレステロール硫酸と結合したMMP-7が近傍の細胞表層タンパク質であるHAI-1(hepatocyte growth factor activator inhibitor type 1)を切断することで、細胞凝集を惹起する。これまで、細胞外へ放出されたHAI-1の細胞外領域が細胞間接着を誘導することが示唆されていた。 しかし、本研究を進める中で、このHAI-1細胞外領域単独でのがん細胞凝集誘導能は極めて弱く、補助的寄与しか持たないことが判明した。一方、2020年度までの研究で、MMP-7が誘導する細胞凝集メカニズムにセリンプロテアーゼ活性が介在することが示唆された。 2021年度はMMP-7がエンドサイトーシスにより、がん細胞内に取り込まれた後、細胞内小胞にてセリンプロテアーゼの活性発現に寄与しつつ、細胞内シグナルを惹起する可能性を考え、その検証を行った。 まず、種々のエンドサイトーシス阻害剤の存在下、がん細胞をMMP-7で処理したところ、ダイナミン阻害剤により細胞凝集が有意に抑制されることを見出した。次に、いくつかのセリンプロテアーゼが細胞内小胞においてプロテアーゼ活性化受容体(PARs)を活性化することから、PARs下流のMAPK経路を調べた結果、MMP-7処理に伴いERKのリン酸化が亢進することが判明した。 以上より、細胞内に取り込まれたMMP-7はMAPK経路を活性化しつつ、細胞凝集を誘導することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当研究室はスタッフ1名体制であるが、2019年度および2020年度は研究室に大学院生が不在であった上、新型コロナ感染症拡大に伴う大学の入構規制により、学部学生が研究室に入れなかった時期があり、人員不足が研究遅延の主な理由であった。 しかし、2021年度は大学院生2名を獲得するとともに、学部4年生3名が研究に参画したため、幾分遅れを取り戻すことができた。また、研究を進める中で幾つかの新たな発見があったものの、2年間の遅れを完全に取り戻すことはできなかったため、やや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度はマトリプターゼ遺伝子をCRISPR/Cas9システムを用いて欠損させたがん細胞の作出を試みたが、MMP-7により細胞凝集が誘導される大腸がん細胞株はいずれも薬剤耐性を示し、CRISPR/Cas9ベクター導入後の薬剤選択が困難であることが判明した。これらの細胞株の薬剤選択時の形態を観察すると、MMP-7処理により誘導される細胞凝集と同様の凝集形態を示したことから、ベクター導入細胞の周囲にベクターを持たない細胞が接着しつつ残存してしまうため、薬剤耐性を獲得してしまうのではないかと考えた。今後は本研究の中で見出された細胞間接着阻害剤を利用しつつ、マトリプターゼ遺伝子欠損細胞の選択を試みる予定である。 一方、細胞間接着と薬剤耐性はがん幹細胞に見られる共通の性質であり、かつ、がん幹細胞が、がん転移において中心的な役割を果たすこと考慮すると、MMP-7による細胞凝集の誘導に伴い、がん転移能が増強されることは、がん幹細胞の増殖、維持が反映されている可能性が高いと考えられる。今後はMMP-7が誘導する細胞凝集の分子メカニズムの全容解明を進めつつ、がん幹細胞マーカー等を調べることにより、がん幹細胞の増殖、維持へのMMP-7の寄与を調べていく予定である。
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Causes of Carryover |
「現在までの進歩状況」で述べたように、2019年度および2020年度に新型コロナ感染症拡大に伴う人員不足により、研究が遅れたこと、およびMMP-7よる細胞凝集誘導機構にセリンプロテアーゼが関与するという、本研究の中での新しい発見により、そのメカニズム解明のための研究材料が必要となったことから、当初計画していた研究用試薬に替えて新しく種々の試薬を購入する必要性が生じた。2021年度はこれら試薬を購入しつつ研究を進めたが、年度内にメカニズム解明のための実験を全て完了させることが困難であったため、次年度使用が生じた。次年度は可能な限り速やかに研究費を執行し、新規メカニズムの解明を急ぐ予定である。
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Research Products
(2 results)