2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K07048
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
山崎 泰広 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (80415330)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 性差 / コレステロール胆石症 / 胆汁分泌 |
Outline of Annual Research Achievements |
コレステロール胆石症は、コレステロール過飽和により生じた結石によって引き起こされる疾患であり、女性に好発することが知られている。胆石症発症には胆汁脂質成分の不均衡が引き金となるため胆汁分泌能の性差が重要であるが、その詳細については解明されていない。本研究では、in vivoによる胆汁分泌能の測定とオミックス解析を組み合わせることにより、胆汁分泌能の性差が胆石症発症率の差を生み出す可能性について検討した。 我々はマウスを用いた研究から、高脂肪食負荷による胆汁中の胆汁酸濃度変化に雌雄差があることを見出している。そこで2019年度はこの現象に卵巣ホルモンが関与する可能性について検討した。マウスに両側卵巣切除術(OVX)または偽手術(sham)を行い、4週間飼育することにより卵巣ホルモンを枯渇させた。これら2群に対して高脂肪食で3日間飼育した後、胆汁中の脂質成分を解析したところ、OVXマウスはshamマウスに比べ、コレステロール、リン脂質の濃度に差は見られなかったが、胆汁酸濃度は低値を示した。30分間に分泌された胆汁酸量を算出したところ、OVXマウスではshamマウスに比べて減少した。以上の結果から、卵巣ホルモンの欠如は胆汁中への胆汁酸分泌を減少させることにより胆石発生を促す可能性が示唆された。 性ホルモンの関与しない胆汁分泌能性差が存在するかについて検討するために、マウス胎児における肝発現遺伝子の雌雄差をDNAマイクロアレイにより解析した。その結果、胆汁酸の合成・運搬に関与する遺伝子の一部に雌雄差があることが見出された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は性ホルモンによる胆汁分泌能への影響を調べるために、卵巣摘出マウス(OVXマウス)を作成し、偽手術群と比較した。胆汁分泌能は生きたマウスの胆嚢にカニューレを挿入し、得られた胆汁を解析することにより行った。その結果、OVXマウスではコレステロールやリン脂質の分泌能に変化がないのに対し、胆汁酸分泌能は低下していることを見出した。これまで、卵巣ホルモンの一つであるエストロゲンを過剰投与することにより、肝臓におけるコレステロール生合成、およびコレステロールの胆汁分泌が亢進し、コレステロール胆石発生が促進されることが報告されてきた。しかし、胆汁中の胆汁酸濃度低下はコレステロールの結晶化を促すため、この結果は適度な量の卵巣ホルモンは逆に胆石発生を抑える働きがある可能性を示している。男性ホルモンに関しては精巣摘出マウス(ORX)を作成し、血中テストステロン濃度が低下したところまで確認ができており、今後同様に胆汁分泌能を調べる予定である。 また遺伝的性差が胆汁分泌に与える影響を調べるため、性ホルモンの影響が非常に少ないと考えられる胎生17.5日齢のマウス肝臓を採取し、DNAマイクロアレイにかけることで雌雄の発現遺伝子の違いを調べた。同腹から雌雄それぞれ3匹の肝臓を摘出し、得られたmRNAからcDNAを合成した後、3匹分を混合してサンプルとした。その結果、胆汁酸の生合成や運搬に関わる遺伝子の一部が雄に有意に発現していることを見出した。本実験により、DNAマイクロアレイにかけるサンプルの調製法や、データの解析法(Pathway解析等)について習得したので、今後性ホルモンによる胆汁分泌能への影響の解析に応用する。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の結果より、卵巣ホルモンが胆汁酸の胆汁分泌に影響を及ぼし、コレステロール胆石発生に抑制的に働く可能性が示唆されたため、2020年度以降はその詳細なメカニズムの解明を目指す。具体的には、卵巣摘出術(OVX)群、偽手術(sham)群のマウスを胆石症誘発食で3日間飼育する。1群3匹とし、サンプルは3匹分を混合して用いる。摘出した肝臓からmRNAを抽出し、逆転写によって合成したcDNAをDNAマイクロアレイにかけ網羅的に解析する。2群間における発現変動遺伝子を抽出し、パスウェイ解析により変動の大きかったシグナル、およびその上流因子を探索する。挙がった候補の中から、胆汁酸代謝・分泌に関与する因子をピックアップする。同定された新規因子やシグナルに対する阻害薬を胆石症モデルマウスに投与し、胆石の有無や胆汁分泌能の変化について解析する。また、雄マウスにおける男性ホルモンの胆石形成への影響が確認できていないので、精巣摘出(ORX)マウスを用いて雌と同様に解析する。 胆汁酸合成・輸送に関する性差はすでに胎生17.5日齢で存在する可能性があることを、DNAマイクロアレイにより見出した。この結果は、性ホルモンが関与しない因子の存在と共に、胆汁分泌機構の発達性差が胆石症発症性差にも関与する可能性を示唆している。そこでこの仮説を検証するために、新生児期のマウス肝臓を用いて、発達段階における発現変動遺伝子の雌雄差についてDNAマイクロアレイで解析する。
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Causes of Carryover |
卵巣摘出術の成否を判定するために、エストロゲン定量キットを購入する予定であったが、子宮重量の測定の方がより正確に判定できることがわかったため、購入しなかった。余剰分は次年度に用いるDNAマイクロアレイ用のgene chipに充てる。
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