2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K07048
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Research Institution | 湘南医療大学 |
Principal Investigator |
山崎 泰広 湘南医療大学, 薬学部医療薬学科, 准教授 (80415330)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 性差 / コレステロール胆石症 / 胆汁分泌 |
Outline of Annual Research Achievements |
コレステロール胆石症は、発症率や死亡率、治療薬への応答性に性差があることが知られている。この性差には、胆汁酸分泌能の違いが一つの要因として関与する可能性があるが、その詳細は解明されていない。我々はこれまでの先行研究から、マウスでは胆汁中の胆汁酸濃度が雌で有意に高いこと、高脂肪食負荷時の応答が雌雄で異なることを見出しており、この結果は胆汁分泌能の性差が胆石症発症に影響を及ぼす可能性を示唆している。そこで本研究では、肝臓における遺伝子発現の性差を網羅的に解析し、胆汁分泌能の雌雄差が生じるメカニズムについて考察した。 8週齢同腹の雌雄マウス肝臓からtotal RNA を抽出し、DNA マイクロアレイ による網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、雌雄で発現量の異なる遺伝子が700 個以上同定され、遺伝子発現レベルで性差が生じていることが明らかとなった。この雌雄差が、肝臓の機能と具体的にどのように関わっているかを調べるために、パスウェイ解析を行ったところ、雌優位な遺伝子にはコレステロール・胆汁酸合成関連遺伝子が多く含まれており、雄ではこれらに関わる遺伝子で優位なものは少なかった。これまでの研究成果から、肝臓における胆汁酸トランスポーター・ABCB11の毛細胆管膜における発現、および胆汁酸分泌能は雌で有意に高いことがわかっている。以上をまとめると、雌で胆汁酸の分泌能が高いのは、胆汁酸合成能、および胆汁酸トランスポーターの毛細胆管膜への局在化が雄に比べて亢進しているためであると考えられる。コレステロール・胆汁酸合成関連遺伝子の雌雄差はホルモンや環境の影響が少ないと考えられるE17.5、およびP8.5の肝臓では見られなかったことから、この雌雄差は染色体由来の性差ではなく、性ホルモンや環境に依存する性差であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
昨年度は新設の湘南医療大学・薬学部に移籍したが、コロナ禍の影響で校舎の完成が約1年遅れ、実験を行うことができなかった。そのため、研究は前職の静岡県立大学で行い、試薬は2020年度に購入したもの用いて進めた。 遺伝的性差が胆汁分泌に与える影響を調べるため、8週齢のマウス肝臓を採取し、DNAマイクロアレイにかけることで雌雄の発現遺伝子の違いを調べた。同腹から雌雄それぞれ3匹の肝臓を摘出し、得られたmRNAからcDNAを合成した後、3匹分を混合してサンプルとした。マウス肝臓の雌雄間における発現変動遺伝子は、1294個同定された(雄:583個、雌:711個、fold change > |1.5|)。この発現変動遺伝子を用いてパスウェイ解析を行なったところ、雌優位な遺伝子にはコレステロール・胆汁酸合成関連遺伝子が多く含まれていた。この結果は、雌では雄よりも胆汁酸合成能が高いことを示しており、雌で胆汁酸の分泌能が高くなる一因となっている可能性が示唆された。これら変動遺伝子の詳細な雌雄差について、リアルタイムPCRやイムノブロットによるタンパク質の定量、免疫組織染色法を用いて解析を行う予定であったが、コロナによる影響によりできなかった。本解析からはABCB11の細胞内トラフィキングに関与する分子は特定できなかったので、これに関しては引き続きアレイデータを解析する。またこれまで成果から、卵巣ホルモンの欠如が核内受容体FXRの発現を減少させること、それによりABCB11の遺伝子が減少し、胆汁酸分泌能が不十分となる可能性を見出している。この減少メカニズムを調べるために、卵巣摘出術を施した雌マウスを用いて解析する予定であったが、これも実現できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、コロナによる新校舎完成の遅れにより研究に必要な条件が揃っていないため、まずは必要な器具・試薬を早急に準備し、動物実験ができる環境を整える。 これまでの研究により、雌は雄に比べて胆汁酸合成能、および分泌能が高い事、また卵巣ホルモンが不足すると胆汁酸分泌を担うトランスポーター・ABCB11の発現、および機能が低下することを見出した。これらの結果は、更年期に入った女性は、胆汁酸分泌能が落ちることによって胆のうにおけるコレステロール胆石の発生率が上がる可能性を示唆しており、高齢の女性で胆石症発症リスクが高まるという疫学調査にも合致している。この仮説をさらに検証するため、以下の順で研究を進める。①コレステロール・胆汁酸合成系遺伝子のリアルタイムPCRによる定量的な解析、および主要タンパク質の定量解析。これにより本当に雌雄差があるのかを確認する。②卵巣摘出術を施した雌マウスで同様の解析を行い、この現象が卵巣ホルモンによるものかについて検証する。 またこれまでの成果より、ABCB11の遺伝子発現に雌雄差はないが、毛細胆管膜でのタンパク質発現が雌で有意であることを見出している。この違いがABCB11の肝細胞内でのトラフィキングの違いによるものかを調べるために、免疫組織染色による発現分布の違いを解析する。さらに雌雄マウスの肝臓それぞれに蛍光タンパク質融合トランスポーター遺伝子をin vivo導入し、遺伝子産物の動態を観察することにより、詳細なトランスポーター分子の細胞内トラフィキングを解析する。違いが確認された場合はOVXマウスを用いて同様の解析を行い、卵巣ホルモンがABCB11の細胞内動態に影響を及ぼすかについて調べる予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度は新設の湘南医療大学・薬学部に移籍したが、コロナにより校舎の完成が約1年遅れ、試薬や機器、動物の購入ができなかった。そのため、昨年度は前任の静岡県立大学で研究を行い、試薬は2020年度に購入したものを使用した。
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