2020 Fiscal Year Research-status Report
腸管上皮組織の細胞極性依存的な抗酸化ストレス応答とその制御機構
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19K07061
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
矢野 環 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (50396446)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 腸管上皮細胞 / 腸内常在菌 / Ref(2)P/p62 / 加齢依存的バリア破綻 |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管上皮組織は経口により腸管内に取り込まれた病原体の体内への侵入を防ぐ物理的、免疫学的バリアとして重要である。それと同時に腸内細菌は宿主の栄養吸収に働き、かつ病原体の増殖と競合することにより宿主に有利に働くため、宿主は腸内常在菌を維持する。しかし常在菌は時として宿主に炎症を生じさせることが知られているが、その分子機構の多くが不明であった。我々はこれまでに、ショウジョウバエ腸管をモデル系として腸管上皮損傷、それによる炎症と腸内細菌の関係を検討した。その結果、腸内細菌に対して分泌された活性酸素種(ROS)による腸管上皮細胞の損傷により、細胞極性に応じてRef(2)P/p62構造体がシグナルプラットフォームとして形成され、その結果Hippo経路の不活化による細胞非自立的な腸管幹細胞の分裂促進がおきることを明らかにしてきた。本研究は、腸管上皮細胞におけるROS依存的なRef(2)P/p62構造体形成機構、および損傷応答に対する腸管恒常性維持期機構の解明が目的である。 令和2年度では、ヒトの炎症性腸疾患の遺伝的要因であるオートファジー不全が、野生型では炎症を生じさせない腸内常在菌によって生じるRef(2)P/p62構造体の除去不全に起因する過剰な幹細胞分裂によっていること、オートファジー不全は慢性的な炎症を生じさせて腸管バリア機能の破綻をおこし、個体の寿命を短縮させることを、ショウジョウバエモデルにより証明した。すなわち、オートファジーは常在細菌に対する宿主腸管の寛容機構であり、これらの成果を投稿論文として報告した。さらに、令和元年度に実施したゲノム網羅的スクリーニングの結果から、腸管内の活性酸素種を感知し損傷応答を惹起する起点となる因子を複数同定し、その機能を解析した。これらはいずれも細胞膜貫通型の因子で腸管上皮の機能は未知であり、新規な損傷感知機構の存在を示唆することを得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は腸管上皮組織における損傷応答とその制御の分子機構を明らかにし、その破綻として生じる腸管上皮バリア機能の破綻や腸管炎症の発症機構を解明することにより、加齢に伴う炎症成腸疾患治療の知的基盤を得ることが目的である。令和2年度は、腸管上皮細胞におけるオートファジーが常在菌に対して生じる不要な損傷応答を抑制し、加齢依存的なバリア破綻を招く慢性炎症を防いでいることを明らかにした。またその分子機構は、腸管上皮細胞におけるHippo経路上流因子Dachsと選択的オートファジーアダプターRef(2)Pが構成する構造体のオートファジーによる量的制御の不全であり、それが長期にわたり蓄積することが慢性炎症と寿命短縮の原因であることを明らかにし、これらの結果をDevelopmental Cell誌に論文として報告した。この論文はpreviewがつくなど、高い注目を浴びた。 さらに、令和元年度に実施したゲノム網羅的スクリーニングから得た候補遺伝子を絞り込み、活性酸素種(ROS)による損傷依存的なRef(2)P構造体形成機構の解明を行った。その結果、ROSに依存した損傷応答の起点にロイシンリッチリピート因子であるtartanとcapriciousが機能していること、また、損傷細胞の感知にはImmunoglobulin-like domainを有するIgSF因子が機能し、これらの複数の機構が統合して適切な程度の損傷応答を規定していることを示した。さらに、今年度は上皮細胞頂端側のアクトマイオシンに着目した加齢依存的なバリア機能破綻機構の解明に着手した。以上のように、本研究で開始したスクリーニングは既知の機構にはない新たな損傷応答機構と、その破綻に基づく加齢依存的なバリア破綻機構を明らかにする手がかりを得ることができ、また、その解析が順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題は当初の計画以上に進展しており、今年度は昨年度までの進捗の発展研究を行っていく。本研究の解析により新たに腸管上皮損傷応答における重要性が明らかになったIgSF因子tutl, dLarを介した、活性酸素種による損傷感知機構を遺伝学的、組織学的手法を用いて詳細に解析する。また、神経細胞においてこれらの因子と相互作用することが示されている別のIgSF因子borderlessについても、その腸管上皮細胞における機能とtutl, dLarとの相互作用を遺伝学的、生化学的に解析することにより、IgSF因子群による損傷細胞感知機構の全貌を明らかにする。さらに令和2年度に明らかにした、ROS依存的に惹起される損傷応答の起点となるイシンリッチリピート因子tartan, capriciousのリガンド同定を行うことにより、ROS損傷の感知機構を明らかにする。 また、加齢依存的なバリア機能破綻の機構を今年度に引き続き頂端側繊維(cortical actomyosin)に着目して進め、その加齢依存的な変化、上皮細胞の細胞間接着との関係を明らかにする。さらに、その結果として起きる腸内細菌叢の変化と、それに依存したバリア破綻増悪の機構を明らかにする。これらの研究から得られる成果は、加齢依存的な腸管バリア機能破綻とそれによる慢性炎症疾患の分子機構の解明に極めて重要である。 本年度は最終年度であるため、これらの研究で得られる成果を学会発表、および投稿論文として発表し、研究成果をまとめる。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ感染の影響で予定していた学会がキャンセル、あるいはオンライン開催となり、研究成果の学会発表に予定していた旅費を使用しなかった。また、研究経費(消耗品)に関しては、研究の進展に応じてほぼ予定通りに使用した。その他の経費(研究成果投稿料、通信費、印刷費、外国語論文の校閲)については、研究成果投稿料は予定よりも優れた成果が出たため、予定以上に使用した。その他は予定通り使用した。以上の合計により次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、予定よりも研究が進捗しているため、本年度の成果の結果に基づくさらなる遺伝学的、組織学的検討に必要な動物飼育費、試薬、プラスチック器機、ショウジョウバエ系統入手のための通信費に使用する。また、次年度は最終年度であるため、特に研究成果発表のための英語校閲、論文投稿費、また、オンサイト学会が開催された場合の旅費、オンライン学会の場合の参加費に使用する。
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Research Products
(4 results)