2020 Fiscal Year Research-status Report
ミクログリアにおけるホスホイノシチドシグナルの病態寄与に関する研究
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19K07080
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高鳥 翔 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (80624361)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / ミクログリア / ホスホイノシチド / TREM2 / DAP12 / INPP5D |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病(AD)の遺伝学的リスク因子として、ミクログリアの受容体タンパク質TREM2の機能低下型変異が知られている。ミクログリアは、ADの原因タンパク質であり神経障害性を示すアミロイドβ(Aβ)の凝集・蓄積に応答し集簇することで神経保護的な働きを示し、その機能にTREM2を必要とする。本研究では、ミクログリアによる中枢異常検出の分子機構解明の一端としてTREM2下流経路に着目し、特にシグナル脂質のひとつであるホスホイノシチドの病態生理学的役割を明らかにすることを目的とした。 これまでに、ADリスク遺伝子のひとつでありミクログリア特異的に発現するホスホイノシチド代謝酵素Inpp5dをヘテロ欠損したマウスの解析から、TREM2、INPP5DがミクログリアのAβ斑への集簇を正負に制御することを明らかにしていた。本年度はその分子背景を明らかにするべく、マウス脳から単離したミクログリアの遺伝子発現変化について解析を行い、Inpp5d欠損マウスの表現型変化を説明しうる新規の発現変動遺伝子の一群を同定した。また、初代培養ミクログリアにおいて、ホスホイノシチドPI(3,4,5)P3下流シグナルは、TREM2発現抑制により減弱した一方で、INPP5D発現抑制により亢進した。このことから、PI(3,4,5)P3がミクログリアのAβ斑への集簇化に関わる重要な因子である可能性が示唆された。現在、海外の製薬企業がTREM2のリガンド抗体をAD治療薬として開発中であるが、抗体は脳内移行性が低いため医薬としての実現には困難が予想される。TREM2下流経路のうちPI(3,4,5)P3代謝経路は低分子化合物による介入が可能な標的であり、本研究はTREM2を標的とした医薬開発にも有用な知見を与える可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ADリスク因子TREM2の機能低下マウスでは、Aβ斑の近傍に集簇し神経保護的役割をもつミクログリアが減少することにより神経障害が増悪する。私たちはこれまでに、TREM2機能低下を示すTyropb欠損マウスに対し、PI(3,4,5)P3ホスファターゼであるInpp5dをヘテロ欠損することにより、ミクログリアの集簇が有意に回復することを見出していた。昨年度は、集簇回復の分子機序を明らかにするため、マウス脳から単離したミクログリアの遺伝子発現変化についてRNAseq解析を行った。Tyrobp欠損マウスにおいては、ADに特徴的なミクログリアサブタイプであるdisease-associated microglia(DAM)が抑制されていたが、DAM遺伝子の発現はInpp5dのヘテロ欠損により回復しなかった。このことは、DAMがミクログリアの集簇と神経保護に必要ないことを示唆した。一方で集簇回復に関与する因子としてMAPK経路やWNT経路の複数の候補分子を同定した。さらに、初代培養ミクログリアにおいてPI(3,4,5)P3下流シグナルはTREM2、TYROBPの発現抑制により減弱したが、INPP5Dの発現抑制によって回復した。このことは、PI(3,4,5)P3下流シグナルがAβ斑への集簇に関与する可能性を示唆する。さらに、同様の解析をその他の既知のPI(3,4,5)P3ホスファターゼに対して行ったところ、INPP5Dと同様の働きを示す分子は見出されなかった。このことは、ミクログリアのPIPs代謝においてINPP5Dが特異的に重要であることを示唆した。これらの結果は、AD発病抑制に関わるミクログリアとPI(3,4,5)P3シグナルを関連づける重要な意義がある。
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Strategy for Future Research Activity |
Inpp5dヘテロ欠損マウスの解析に関しては、ミクログリアがAβ斑に対し集簇回復することを見出したため、今後は各種の神経変性関連マーカーの変化について主に病理学的に解析することにより、ミクログリアの神経保護機能について明らかにする。これまでの結果からINPP5Dの発現抑制により神経保護機能が改善することが想定されるため、今後さらに計画を発展させInpp5dをホモ欠損した場合の影響についても解析する意義があると考えている。Inpp5dの全身性ノックアウトマウスは若齢で致死となるため、ミクログリア特異的にINPP5Dを欠損するADモデルマウスを作出しその表現型を詳しく解析する予定である。 さらに、PI(3,4,5)P3の役割解明のため当初計画していた、PI(3,4,5)P3の可視化解析に関しては進展が遅れている。その原因として、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる生体内ミクログリアへの遺伝子導入が難航していることが挙げられる。これまでにミクログリアへの遺伝子導入実績のあるAAVセロタイプについて、初代培養ミクログリアに対する効果は確認できているもののin vivoでは奏功していない。そこで他のAAVセロタイプについても並行して検討を進めていく。これにより、ミクログリアにおけるPIPsを可視化する手法を確立する。
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Research Products
(4 results)