2019 Fiscal Year Research-status Report
ラット外傷性出血性ショック後の炎症性二次障害に対する魚油製剤短期投与の有効性
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19K07081
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
小林 哲幸 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (50178323)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
相星 淳一 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 講師 (50256913)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脂質栄養 / 救急救命医療 / 出血性ショック / オメガ3脂肪酸 / 魚油 / 質量分析 / 脂質メディエーター |
Outline of Annual Research Achievements |
必須脂肪酸の一種であるオメガ3脂肪酸は魚油に豊富に含まれ、種々の炎症病態において抗炎症作用を示すことが既に明らかにされている。一方、出血性ショックなどの重傷病態に対するオメガ3脂肪酸の臨床栄養学的研究は数少なく、オメガ3脂肪酸の短期間静脈内投与が出血性ショックと続発性遠隔臓器障害における炎症反応の抑制や循環動態の安定化に寄与することがラットを用いて示唆されている。しかし、オメガ3脂肪酸を経腸投与した場合の効果については明らかではない。 本研究では、外傷性出血性ショックモデルラットを用いて、オメガ3脂肪酸を豊富に含む魚油を救急医療の臨床に近い条件下で短期間経腸投与し、その抗炎症作用について循環動態改善作用も含めて解析した。また、質量分析を用いたリピドミクスを行い、脂質メディエーター産生の視点から抗炎症作用機序について解析し、救命救急医療に適用可能な魚油経腸栄養剤の投与方法および抗炎症作用を評価した。 具体的には、次のような研究を計画し実施中である。まず、臓器障害の程度や血液循環動態を測定しながら投与条件(投与方法、用量、時期)を検討する。また、生体顕微鏡等を用いて魚油投与後の白血球動態を解析することにより急性炎症病態を評価する。さらに、質量分析装置を用いた脂質メタボローム解析によって炎症性脂質メディエーターを分析することにより、抗炎症機構を探究する。以上の研究により、救急救命医療に適用可能な出血性ショックにおける魚油経腸投与の抗炎症作用をラットで評価するとともに、その分子機構に関わる脂質代謝を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
外傷性出血性ショックモデルラットを用いて魚油の短期間経腸投与条件(投与方法、用量、時期)を検討した結果、生理食塩水を同条件下で投与した群に比べて、血中乳酸値に違いが認められる条件を決定することができた。またその際、ショック終了後4時間目にリポポリサッカライド(LPS)を静脈内投与して遠隔臓器障害を惹起することにより、抗炎症効果を評価しやすくできることを新たに見いだした。 確立された投与条件を用いて、生理食塩水、イワシ油(オメガ3)、またはコーン油(オメガ6)の3群のラットに対して経腸投与した結果、イワシ油投与群の血中乳酸値は他の群に比べて有意に低いことがわかった。また、出血性ショック後の乳酸値から最終的な乳酸値の改善率を表す、乳酸クリアランスについてもイワシ油群で高い傾向が観察され、魚油の循環動態改善作用が認められた。 質量分析を用いた脂質メタボローム解析の結果からは、血漿中の遊離脂肪酸についてショック後4時間目で変化が見られ、オメガ6系の遊離脂肪酸であるアラキドン酸(AA)はコーン油群で濃度が高く、オメガ3系のEPA、DPA及びDHAは、魚油群で濃度が高いことが示された。 臓器(心臓、肺、肝臓、腸管)中の遊離脂肪酸は臓器間での脂質組成の違いは小さく、AAは生理食塩水群やコーン油群に比べてイワシ油群で低かった。一方で、EPA、DPA、DHAは逆にイワシ油群で高い濃度が観察された。特に肝臓と腸管では、EPAで有意な差があったこと、心臓や肺よりも遊離脂肪酸の濃度が高かったことから、イワシ油の短期経腸投与による影響が強く現れることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今までの研究から、短期間の魚油の経腸投与であっても循環動態の改善作用が認められ、血漿や臓器中にオメガ3系遊離脂肪酸が増加していることが示された。今後は、遊離脂肪酸から産生される炎症性や抗炎症性脂質メディエーター(遊離アラキドン酸、エイコサノイド、レゾルビン等)の他、我々が見出した出血性ショック関連脂質であるリゾホスファチジルコリン(LPC)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE))について、質量分析装置を用いたメタボローム解析により定量分析する。また、オメガ3系列脂肪酸に由来する新しい抗炎症性メディエーターの探索も行い、出血性ショックモデルにおける魚油の抗炎症作用の作用機構を脂質代謝の観点から明らかにする。 また、最近、出血性ショックにおいても迷走神経刺激が抗炎症作用を示すことが報告され注目を集めている。本研究のラット実験モデルにおいて、迷走神経刺激の効果を魚油投与と合わせて検証することを計画している。
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Causes of Carryover |
出血性ショックでは、輸血によって虚血状態は回復しても酸化ストレスが惹起され、各種の炎症性メディエーターが全身を循環して急性呼吸促迫症候群などの肺傷害や多臓器不全などの重篤な炎症性二次障害が問題となる。出血性ショックに伴う急性炎症病態と魚油投与による抑制効果について、in vivo imaging systemを用い生きたラットで血管透過性や活性酸素産生、エラスターゼ産生などを測定し、急性炎症症状を多面的に評価するための準備を始めることを計画していた。しかし、令和元年度は投与条件の詳細な検討を優先したため、血管透過性等の実験が間に合わなかった。令和2年度に改めて具体的に詳細な検討を行えるよう、計画の見直しを行ったため。
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