2019 Fiscal Year Research-status Report
てんかん発作における異物取り込み膜輸送体の薬物治療学的意義の解明研究
Project/Area Number |
19K07126
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Research Institution | Takasaki University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
中道 範隆 高崎健康福祉大学, 薬学部, 教授 (10401895)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 脳・神経 / 脳神経疾患 / 神経科学 / 薬理学 / 輸送担体 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、これまでにカルニチン/有機カチオン膜輸送体OCTN1が脳において機能的に発現しており、抗酸化物質ergothioneine (ERGO)の細胞内取り込みを介して神経細胞の分化や成熟に関与することを明らかとした。しかしながら、OCTN1の病態生理学的意義や薬物治療学的意義についてはほとんど明らかとなっていない。そこで本研究は、膜輸送体OCTN1がてんかん発作にどのような影響を及ぼすのかを解明し、OCTN1の新規てんかん薬物治療標的分子としての可能性を示すことを目的として行った。まず、OCTN1がてんかん発作にどのような影響を及ぼすのかを明らかとするため、pentylenetetrazole (PTZ)を野生型マウスとoctn1遺伝子欠損マウスに投与し、PTZによって引き起こされるけいれん発作を観察したところ、OCTN1の遺伝子欠損によりけいれん発作が抑制されることが明らかとなった。PTZの投与に伴い、野生型マウスでは海馬におけるc-fosの発現が顕著に増加したが、octn1遺伝子欠損マウスではこのc-fos発現増加が有意に抑制された。OCTN1は膜輸送体であるため、PTZの臓器中濃度に影響を及ぼす可能性について検討したが、脳、血漿、肝、腎のPTZ濃度は、野生型マウスとoctn1遺伝子欠損マウス間で差は見られなかった。以上より、膜輸送体OCTN1はPTZの臓器中濃度に影響を及ぼさずに脳神経細胞の興奮を抑え、PTZ誘発けいれん発作を抑制する可能性が示された。OCTN1の遺伝子欠損によりマウスに目立ったフェノタイプが現れないことから、OCTN1の阻害は副作用の少ないてんかん治療薬の開発につながることが期待される。今後は膜輸送体OCTN1の遺伝子欠損がどのような作用機序でPTZ誘発けいれんを抑制するのかについて、OCTN1が興奮性および抑制性神経伝達に影響を及ぼす可能性に着目して検討を加える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、膜輸送体OCTN1がてんかん発作にどのような影響を及ぼすのかを解明し、OCTN1の新規てんかん薬物治療標的分子としての可能性を示すことを目的として行っている。初年度の研究実績として、膜輸送体OCTN1はPTZの臓器中濃度に影響を及ぼさずに脳神経細胞の興奮を抑え、PTZ誘発けいれん発作を抑制する可能性が示された。けいれん発作は主にglutamic acid (Glu)によって制御される興奮性シグナルとγ-aminobutyric acid (GABA)によって制御される抑制性シグナルのバランスが崩れることによって起こる。OCTN1はERGOやcarnitineといった両性化合物を基質とすることから、GluやGABAのようなアミノ酸(両性化合物)を輸送する可能性は十分に考えられる。そこで次年度以降、OCTN1がGlu作動性およびGABA作動性神経伝達に影響を及ぼす可能性に着目して検討を加える。以上はおおむね予定通りの進行であり、本研究計画の現在までの達成度は「おおむね順調に進展している。」と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
【OCTN1の遺伝子欠損が興奮性および抑制性神経伝達に及ぼす影響】OCTN1はERGOのようなアミノ酸を認識するため、OCTN1の遺伝子欠損がてんかんの発症に関与するGluやGABAの神経情報伝達に影響を及ぼす可能性について検討を加える。野生型マウスあるいはoctn1遺伝子欠損マウスにおいてPTZ反復投与によるけいれん発作を観察後、海馬にプローブを挿入し、マイクロダイアリシスを行う。プローブ挿入24時間後に、PTZあるいは高濃度KCl刺激に伴う脳細胞外液中のGluおよびGABA濃度を経時的に測定する。 【OCTN1の遺伝子欠損が酸化ストレスや神経障害に及ぼす影響】野生型マウスあるいはoctn1遺伝子欠損マウスにおいてPTZ反復投与によるけいれん発作を観察後、大脳皮質と海馬を摘出し、組織中のグルタチオン濃度を測定し、酸化ストレスについて評価する。また、PTZの最大反復投与回数を9回とし、正向反射を消失した全身の間代性または強直間代性けいれんが3回続いた24時間後に海馬を摘出し、Timm染色およびNissl染色を行い、苔状線維の異常な発芽や神経毒性について評価する。
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