2019 Fiscal Year Research-status Report
幼若期ストレスによる精神機能発達障害と養育行動の機序解明からの薬物治療戦略
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19K07133
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Research Institution | Nagasaki International University |
Principal Investigator |
山口 拓 長崎国際大学, 薬学部, 教授 (80325563)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 発達障害 / 幼若期ストレス / 養育行動 / 前臨床評価法 / 薬物治療 / 選択的セロトニン再取り込み阻害薬 / 抑うつ様行動 / 行動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではHPA axisの中心的なストレスホルモンの一つであるACTHの幼若期反復投与処置による「幼若期薬理学的ストレス負荷ラット」を作製した発達障害の動物モデルを用いて、ストレス負荷を受けた仔獣が母獣から受ける「養育」の観点から発達障害モデルが発現する行動異常の発現メカニズムの病態生理学的解明、ならびに薬物治療に向けての前臨床評価法の確立と新規薬物治療の探索を目指した。 離乳した幼若期(3週齢)のWistar系雄性ラットに、ACTHの活性アナログである酢酸テトラコサクチド(100ug/rat)を5日間反復皮下投与した(ACTH群)。対照群として生理食塩水を同様に投与した。行動学的検討には、スクロース嗜好試験およびSplash試験を用いて、既に明らかにしている幼若期ACTH反復投与ラットの成長後(10~12週齢)における抑うつ様行動を評価した。すなわち対照群と比較して、成熟期におけるACTH群は、スクロース嗜好試験においてスクロース嗜好性の低下が、またSplash試験においてスクロース噴霧誘発Grooming行動の発現低下が認められ、”抑うつ様行動”と考えられる情動行動異常を発現することを確認している。 2019年度は、特に行動学的・行動薬理学的検討を中心に実施し、選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるフルボキサミン(FLV)の改善効果および母獣による「養育行動」の改善傾向を示す結果を得ることが出来た。現時点では、幼若期薬理学的ストレス負荷ラットが示す成長後の抑うつ様行動は、薬理学的ストレス負荷直後および成熟期のFLV反復投与によっていずれの処置においても改善された。したがって、幼若期薬理学的ストレスによる成長後の抑うつ様行動の発現機序として、薬理学的ストレス負荷後に生じる脳内セロトニン神経系の活動低下が関与する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度は母獣による「養育行動」の効果を検討するに先だって、モデル動物の薬理学的妥当性を検証するために選択的セロトニン再取り込み阻害薬であるフルボキサミン(FLV)の効果を行動薬理学的に検討した。その結果、ACTH群に認められた抑うつ様行動である「スクロース嗜好性の低下」および「スクロース噴霧誘発Grooming行動の発現低下」は、3週齢時のACTH投与終了した翌日からのFLV反復投与によっていずれも有意に改善された。また、このACTH処置の翌日からFLV投与した場合と同様に、ACTH群に認められる抑うつ様行動は、成熟期におけるFLV反復投与によっても改善された。したがって、幼若期薬理学的ストレスによる成長後の抑うつ様行動の発現機序として、薬理学的ストレス負荷後に生じる脳内セロトニン神経系の活動低下が関与する可能性が示唆された。 一方、ACTH群をACTH処置後に母獣から隔離して仔獣のみで飼養した「ACTH+離乳群」、母獣と共に8週齢まで飼養した「ACTH+母獣養育群」、出産経験がある別の雌獣と共に8週齢まで飼養した「ACTH+里親群」の3群に分けた。併せてACTH群の対照としてSaline群を準備した。これらの群について、成長後(10=12週齢)にスクロース嗜好試験およびSplash試験によっての抑うつ様行動を指標に検討した。その結果、「ACTH+離乳群」はこれまで得られた結果と同様にSaline群と比較して抑うつ様行動が観察され、「ACTH+母獣養育群」および「ACTH+里親群」では、「ACTH+離乳群」に認められた抑うつ様行動の改善傾向が観察された。2019年度内で本結果を確定させたかったが、群構成における基礎検討に時間を要したため、最終的な結果を得るに至らなかった。2020年度には本結果を確定させるように計画して、次の予定に進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
1】<発達障害モデル動物・幼若期薬理学的ストレス負荷ラットにおける母獣による養育行動の影響>「幼若期薬理学的ストレス負荷モデルラット(幼若期ACTH反復投与モデル)」を作製して、「ACTH+母獣養育群」および「ACTH+里親群」に認められる効果を確定させる。 2】<発達障害に関連する異常行動の発現に関わる脳内分子の探索> 発達障害の中でも特に自閉症発症の成因においては様々な候補遺伝子が提唱されており、これらの遺伝子改変動物が自閉症の症状の一部を行動変化として発現することが知られている。本研究にて使用する幼若期薬理学的ストレス負荷ラットの離乳群、母獣養育群および里親群における脳内においてもこれらの変容が生じているのかを検討するために自閉症関連遺伝子の転写産物であるタンパク質発現の変動をそれぞれの特異的抗体を用いてイムノブロット法によって検討する。本検討にて評価する脳部位は、認知・情動行動に重要な役割を演じている皮質前頭前野ならびに縫線核とし、その脳組織サンプルを採取して比較検討する。明確な候補分子の変化が得られない、あるいは実験手法上の問題が生じた場合は、real-time RT-PCR法を用いて上記の候補分子をコードするmRNAの定量的な発現、あるいはDNAマイクロアレイを使って網羅的にmRNA発現の変化を解析して関連分子の絞り込みを行う。 以上、得られた結果を取りまとめ、成果の発表を学会発表にて、あるいはデータの集積によっては学術論文によって報告する。
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Causes of Carryover |
【次年度使用額が生じた理由】2019年度では約17万円の次年度使用額が生じたが、本研究においては切れ目の無い継続的な実験動物の飼養と維持管理が必要であるため、実験動物の餌や床敷きを購入するためにかかる費用を常に確保しておく必要がある。この2019年度で生じた次年度使用額は、年度を跨ぐ期間に必要な実験動物の維持管理費用に当てるため、ほぼ計画通りの予算運用の範囲内と考えている。
【次年度の研究費の使用計画】2019年度申請分において生じた次年度使用額の約17万円は、本研究における継続的な実験動物の飼養と維持管理のため、年度を跨ぐ期間に必要な実験動物の餌や床敷きを購入するための経費(消耗品費)として使用する。したがって、2019年度申請分において生じた次年度使用額は、翌年度分として請求した助成金に影響しない。2020年度分助成額(交付予定額900千円)は当初の計画どおりに、実験動物の飼養と維持管理、実験試薬購入のための消耗品費(600千円+次年度使用額)、学会参加費および旅費(260千円)および英語論文投稿の英文校正のための謝金(40千円)として運用する予定である。
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