2019 Fiscal Year Research-status Report
細胞外酸性pHによる癌細胞の微小環境ストレス適応機構の解析
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19K07199
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
松尾 泰佑 岩手医科大学, 薬学部, 助教 (70533222)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 微小環境ストレス / 細胞外酸性pH |
Outline of Annual Research Achievements |
癌細胞では、ワールブルグ効果とよばれる酸化的リン酸化から解糖系への代謝変化が生じ、乳酸合成が促進している。本研究では、固形癌の微小環境で見られる乳酸による細胞外pHの酸性化によって変化する因子の同定、およびその因子の栄養飢餓・低酸素ストレス下での癌細胞の生存に対する役割の解明を試みる。これまでにB16F10メラノーマ細胞において、細胞外酸性pHがグルコース飢餓ストレスによって引き起こされるオートファジー性細胞死を抑制することを明らかにしている。初年度は、①B16F10細胞において酸性pHによって変化する因子の同定を試みた。その結果、オートファジーを抑制するmTORのリン酸化は細胞外pHによってほとんど変化しなかったのに対し、癌細胞の生存に関与するAktのリン酸化が酸性pHでは中性pHよりも増加していた。そこで、B16F10細胞の酸性pHによるグルコース飢餓下での生存促進がAktの阻害により抑制されるか調べたところ、Aktの単独阻害では抑制されなかったが、mTOR阻害剤と併用した際には著しい細胞死の増加が認められた。従って、B16F10細胞では、酸性pHによって活性化されたAktがmTORと作用することでグルコース飢餓ストレス誘導性細胞死を抑制している可能性が示唆された。②加えて、胃癌細胞における酸性pHによる影響を確認した。その結果、細胞外pHの酸性化は、MKN45およびMKN74胃癌細胞におけるグルコース飢餓ストレスによる細胞死を抑制することが確認された。しかし、これらの細胞では細胞外酸性pHによるAktのリン酸化は認められず、B16F10細胞とは異なる機構で癌細胞のグルコース飢餓環境下での生存を促進している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
B16F10メラノーマ細胞において細胞外pHの酸性化によりAktがリン酸化されていることが明らかにできた。しかし、MKN45およびMKN74胃癌細胞では細胞外pHが酸性であってもAktはリン酸化されておらず、B16F10細胞とは異なることは確認できたものの、酸性pHによって変化する因子の同定はできなかった。胃癌細胞では中性環境下でグルコース飢餓ストレスを与えた時に細胞死が生じる時間がB16F10メラノーマ細胞よりも遅かった。グルコース飢餓環境を模倣したグルコース不含培地には、癌細胞にとってグルコースと同様に重要な栄養源であるグルタミンが含まれている。そのため、グルタミンがグルコースの代わりの栄養源として使用され、その依存度が癌細胞や細胞外pHの違いによって異なる可能性があり、その検討が必要であると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、MKN45・MKN74胃癌細胞におけるグルコース・グルタミン飢餓ストレス下での細胞外酸性pHの役割を調べるとともに、細胞外酸性pHによって変化する因子の同定を試みる。酸性pHによって変化する因子は、セリン・スレオニン・チロシンのリン酸化が酸性pHで中性pHと比べて変化が生じているかウェスタンブロット解析により確認する。変化が生じていた際には、リン酸化タンパク質を精製し、質量分析により同定を試みる。加えて、HepG2肝癌細胞においても同様の解析を進める。
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Causes of Carryover |
今年度は約9.4万円差額が生じた。これは、酸性pHによって同定する因子が十分に進まなかったためであり、抗体の金額に相当する。次年度に行う因子の同定およびその抗体の購入に使用する予定である。
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