2020 Fiscal Year Research-status Report
Developing a liposome inhalation therapy useful for Influenza risk management
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19K07212
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
小川 晴子 帯広畜産大学, 畜産学部, 教授 (10400079)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武田 洋平 帯広畜産大学, グローバルアグロメディシン研究センター, 特任助教 (30804447)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | インフルエンザ / リポソーム / シアル酸 / α-ガラクトース / 季節性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、季節性に発生を繰り返し、予防法や治療法があるにも関わらず毎年多くの死者を出すインフルエンザに対して、新たな予防的治療法を開発することを目的とする。目指すのは、有効性・安全性・汎用性を併せ持ち、個人で実施可能な予防的な治療法を開発し、集団インフルエンザリスクを低減することである。その治療法は、シアル酸(SA)およびα-ガラクトース(GAL)を発現するリポソーム(SA/GALリポソーム)を、吸入する簡便な方法である。SAはインフルエンザウイルスの受容体であり、ウイルスをリポソームに吸着させることにより感染ウイルス量を低下させる働きをする。また、GALには、人が大量に保有する抗GAL抗体が結合する。以上の結果、SA/GALリポソームにウイルスと抗体が結合した免疫複合体が形成され、オプソニン効果によりウイルス抗原に特異的な免疫応答の速やかな誘導が期待できる。リポソームは脂質の膜で構成され、毒性や抗原性が低いため、吸入剤薬物輸送システムとして利用されている。一方、SAとGALを発現するリポソームを用いた治療法の開発はこれまでに報告がない。本研究には、人同様にGALに対する抗体を産生することのできる実験動物が必要であり、その条件を満たす唯一の小型実験動物であるGAL生成酵素遺伝子ノックアウトマウス(GALノックアウトマウス)を用いて研究を進めている。人は、生涯を通じて季節性インフルエンザウイルスに暴露され続けるため、「感染による免疫獲得―記憶免疫の維持による感染防御―記憶免疫の減弱による感染」というサイクルを繰り返すと理解される。この「記憶免疫の減弱による感染」を回避する方法の確立を目指し、GALノックアウトマウスを用いて、ヒトの季節性インフルエンザウイルスへの反復暴露をシミュレーションする動物モデルを作製しつつ、本治療法の有効性と安全性を検証している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、まず人の季節性インフルエンザをシミュレーションしたマウス実験モデルを構築する必要がある。すなわち、インフルエンザウイルスに感染させた後、一定期間経過して記憶免疫が減弱した時期に、再度インフルエンザウイルスに感染させ、SA/GALリポソームによる治療効果を評価したいと考えている。インフルエンザウイルス感染によって誘導された抗体のうち、中和活性をもつのは赤血球凝集抑制性の抗体(HI抗体)であるため、ウイルス感染させた後にGALノックアウトマウスから継時的に採血し、血中HI抗体価の測定を行い、記憶免疫の減弱時期について解析している。これまでのところ、1度目の感染から5ヶ月後には、HI抗体が検出限度以下になる個体がいるものの、大部分は一定量のHI抗体を保有することが確認された。2度目のウイルス感染に対して、1)感染して発症する(記憶免疫が消失もしくはかなり減弱した状態)、2)感染するが発症しない (記憶免疫により発症は抑制できるが感染は阻止できない状態)、3)感染しない(記憶免疫により感染が阻止できる状態)、以上3種類の結果が想定される。本治療法の効果を検証するためには、1)および2)の経過をたどるマウス群を対象とした実験を行う必要があるため、2度目のウイルス感染前のHI抗体価と感染後の経過 1)~3)の関係について詳細な検証を行っている。2度目感染後のマウスについては、症状観察および体重測定を行うとともに、感染数日後の肺中ウイルス量を測定し感染の程度を評価している。1度目のウイルス感染における評価において、GALリポソーム、SAリポソーム、それらを混合したGAL/SAリポソームを吸入させる処置を繰り返し行ったところ、ある比率で混合したGAL/SAリポソームで治療効果が高い可能性が示されているため、反復感染モデルでの治療効果における評価を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、GALノックアウトマウス用いてウイルス感染による記憶免疫の獲得とその減衰を繰り返す実験モデルを構築できれば、人の季節性インフルエンザをシミュレーションしたマウス実験を行うことができる。季節性インフルエンザのシミュレーションモデルにおいては、1)再感染によって発症する状態(記憶免疫が消失している状態)、2)再感染によって無症状の状態(記憶免疫が減弱している状態)の両モデルを作製し、それらモデル動物を用いて、GAL/SAリポソームの治療効果についての検証を進める。GALリポソームとSAリポソームを異なる比率で混合したリポソームを用い、それらの吸入による治療効果を比較検証する。安全性についてもさらに検証を行う。治療効果の作用機序の確認のために、効果が観察された条件におけるGALとSAの果たす役割について解析を行う。すなわち、治療効果の検証においては GALノックアウトマウスへインルフルエンザウイルスの反復感染実験を行い、GAL/SAリポソームを吸入投与し、治療効果を検証する。治療効果があると判断されたマウスについては、感染後、経日的にマウスを安楽殺して肺を摘出し、感染ウイルス量およびウイルス遺伝子量を定量する。炎症性サイトカイン遺伝子の定量も行い炎症の程度も評価する。感染回復期に血液を採取して血清中のHI抗体価を測定し感染の程度を推定する。治療に用いるGAL/SAリポソームの最適化を目指し、GALリポソームとSAリポソームの量比を変え、安全性と効果を検証する。大きさなどの異なるリポソームも用い検証する。GAL/SAリポソームの治療効果における役割の検証では、GALリポソーム、SAリポソーム、GAL/SAリポソーム、それぞれの投与による病態の変化と免疫応答の違いについて 精査し、GAL/SAリポソームによる治療効果がSAとGALの共存に寄与することを確認する。
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