2019 Fiscal Year Research-status Report
Exploratory reseach of global development pathways of new drugs and optimization in local populations
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19K07215
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野 俊介 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (40345591)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新薬グローバル開発 / 新薬開発戦略 / 有効性・安全性 / 異質性 / 臨床エビデンス / 副作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
グローバル新薬開発が一般化した現在、ローカル(国、地域)レベルでの新薬の有効性・安全性が十分に保証されているかを確認するという主目的達成に向けて、2019年度は次のとおりの成果を得た。 第一に、医薬品の研究開発のグローバル経路が日本(ローカル)の医薬品の安全性に影響を与えている可能性を探索するための検討を行った。2004-2013年に日米で承認された177品目を対象に市販後3年間の副作用死亡報告数を分析したところ、日本で用量設定試験を実施した薬剤及び日本で第3相検証試験を実施した薬剤では死亡数が少なく、ブリッジング試験(多くは日本での用量反応性試験)が実施された薬剤も死亡数が少なかった。用量設定試験を経て国際共同試験を実施した薬剤では死亡数が少なかったが、用量設定試験を実施しなかった薬剤では死亡数が多かった。これらは用量設定根拠を含むローカルエビデンスがローカルでの安全性と何らかの形で関係していることを示した。 第二に、安全性情報収集の基盤となる副作用報告システムの特性の検討を行った。米国の自発的副作用報告システム(US FAERS)の分析の結果、消費者による有害事象報告には重篤な転帰、主観的症状の報告が多いという特徴が見られたほか、未知の副作用の報告、併用薬の報告が消費者で高いことも判明した。 第三に、グローバル新薬開発経路の多様性が生じる理由を探るために、希少疾病用医薬品の開発経路と開発成功確率の分析を行った。分析の結果、米国での先行開発実績がある薬剤で日本での開発成功確率が高いこと、企業の過去の開発経験、バイオマーカーの活用が成功確率を向上させる可能性が示唆された。 初年度のこれらの研究成果は、製薬企業の新薬開発における行動・選択の様態を説明し、さらにそれらが新薬上市後の安全性とどのようなメカニズムで関係しうるかを推測するための重要な手がかりを与えてくれるものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終的な目的は、グローバル新薬開発とローカル(含日本)の有効性・安全性の関係を探索し、グローバルとローカルの関係に何らかのトレードオフが生じる可能性、及びそれらが発生する具体的なメカニズムを探索することにある。 目的達成に向けて、2019年度は特に後期の臨床開発(第2、3相)におけるグローバルエビデンス収集の様態とローカル(日本)での安全性の関係について分析を実施した。探索的な分析からではあるが、従来一般的に示されていたパブリックヘルス上の懸念(ローカルでの相対的なエビデンス不足が当該ローカルでの安全性に悪影響を与える可能性)を支持する結果を得た。その結果に基づき、グローバル開発を行う製薬企業による臨床開発戦略の選択の特徴、及びその背景にあるメカニズムを、企業にとって合理的な利潤最大化などの仮定に基づくモデルを念頭に具体的に想定することが可能となった。さらに健康アウトカムの一側面である市販後の医薬品の安全性評価において、現に得られる副作用報告等の安全性データの質・量が、制度上の様々な制約や報告者へのインセンティブによって影響を受けており、ローカルでの安全性評価ではそのような現実的な要因も、特に(日米間などの)比較考察を行う際には考慮しなければならないことも明らかになった。 学術誌に公表されたこれらの成果は2020年度以降に実施予定の分析とその研究仮説を支えるものである。2019年度の研究において集積した独自の新薬開発データベースを用いた定量的分析が次年度以降可能となっている。こうした進捗は、当初設定した研究計画をほぼ達成するものであり、次年度以降の課題解決に直接に結びつくものである。 以上の実施状況に鑑み、本研究はおおむね順調に進捗しているものと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の成果(新薬のグローバル開発とローカルの安全性にパブリックヘルス上の懸念に対応する相関が見られたこと、グローバル開発戦略の選択に関係するメカニズムの一端が明らかになったこと、ローカルでの安全性評価に際しての留意点が明らかになったこと)に基づき、2020年度はさらに次の点を含む検討を実施することとしたい。 第一に、製薬企業の開発戦略策定・選択の背景メカニズムの探索をさらに領域を拡充して実施する。2019年度の希少疾病用医薬品に加えて、現在特に開発リソースが重点的に注がれている抗がん剤領域に着目し、新薬開発の成功確率等の結果と企業、薬剤、開発背景(がん種の開発順序など)の特徴の関係を回帰分析等の手法で明らかにしたい。そのような分析により、企業がなぜ・どのようにプロジェクトごとの開発着手順序を決定するか等に関する手がかりを得ることができ、ドラッグラグ等の現象を含む開発様態(開発順序)の地域差が生じる理由を探ることができる。 第二に、有効性・安全性の伝統的な(一般的な)指標に加えて、近年広く用いられている、いわゆるリスクベネフィット評価の現状を調査し、また、日本の患者におけるリスクベネフィット選好の特徴を具体的に調査する。かかる調査により、企業が製品開発の際に顧客の選好の何を重視するか(あるいは逆に軽視するか)に関する手がかりが得られ、顧客の好みの違いという観点からのグローバルとローカルのトレードオフの影響の議論が可能となる。さらに、早期の臨床開発段階(第1相)における企業のエビデンス収集の特徴にも研究の観察対象を拡充し、ローカルにおける初期臨床試験の意義を検討するための材料を収集することとしたい。 研究の実施に際しては、2019年度の研究成果(データベース)を活用し、また、現在の新薬開発のトレンド(バイオ医薬品、抗がん剤の重視)を反映したものとなるよう配慮したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響で、参加予定学会(日本薬学会、2020年3月)の開催が中止され、新薬開発に関連する必要な情報収集を行うことが不可能になった。さらに研究用データベースの拡充に必要な製薬企業からの情報収集(聞き取り調査等に基づく)を実施することが不可能になったため、次年度使用額が生じた。 当該金額については、次年度のデータベース拡充費用(最新の商用データベース等の購入費用)に追加して使用することにより、当初予定していたとおりの網羅的な医薬品開発情報収集を行うこととする予定である。
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