2020 Fiscal Year Research-status Report
Exploratory reseach of global development pathways of new drugs and optimization in local populations
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19K07215
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小野 俊介 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (40345591)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 新薬グローバル開発 / 新薬開発戦略 / 有効性・安全性 / 臨床エビデンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的(新薬開発のグローバル化とローカルレベルでの有効性・安全性の関係の探索・検証)達成に向けて、2020年度は次のとおりの成果を得た。 第一に、米国で開発が先行した薬剤を後発・追従国(日本を含む)が受け入れる型の新薬開発様態が一般化している現状に鑑み、現在の米国での抗がん剤の臨床開発の特徴を調査した。米国で2005年から2017年に実施された第3相試験をサンプルとした分析の結果、試験のエンドポイント(OSか否か)、企業における開発の位置づけ(適応取得の順序)、試験開始時のエビデンスなどが試験の成功確率と関係することが明らかになった。これらの結果は単に試験領域やデザインによって表される試験の難しさだけではなく、グローバル企業の承認取得戦略の選択が試験結果として、承認申請段階だけでなく市販後も表示される薬剤の有効性・安全性プロファイルと関係することを示唆した。 第二に、欧米人と日本人のリスクベネフィットプロファイルの好みの相違が薬剤の市場への導入をめぐる企業戦略や国内での医薬品の評価と関係している可能性を探るため、まずは抗がん剤による薬剤治療への患者の好みを欧米における先行研究により定量的に探索した。システマティックレビューの結果、肺がん患者は相対的に安全性指標や副作用よりも便益指標を重視すること、PFS等よりもOSを重視すること、治療方法等の改善はあまり重視しないことが明らかになった。これらの傾向に加えて、好みの地域差・人種差についてはこれまで十分な検討が行われていないことも判明した。 第三に、これらの実証的な研究に加えて、薬効評価の具体的な行為を支える薬機法などの有効性・安全性の基本概念の曖昧さが、薬効評価の結果解釈の曖昧さとリスクベネフィットの混乱を招いている可能性があることについて、議論すべき論点を整理し、論文化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019-20年度までの研究により、現在のグローバル企業が実施する新薬研究開発の様態の特徴の一部(主として薬剤の特徴との関係)を明らかにした。加えて、新薬の価値を享受する各国の患者の特徴(リスク等に対する好みを含む。)を踏まえた薬剤の位置づけのあり方(有効性・安全性の解釈)についての検討が進捗している。 本研究の目的達成に向けて、2019年度は新薬開発後期の臨床データパッケージ構築の経路とローカル(日本)での重篤な副作用発現の関係について分析を実施し、従来から想定されていたパブリックヘルス上の懸念(ローカルエビデンス不足が当該地域での安全性に悪影響を与える可能性)を支持する結果を得た。さらに本年度は、企業の行動の根底にある「不確実性下での新薬開発における選択」を経済学的にモデル化するための分析を実施し、新薬開発ビジネスの中で利潤を追求する企業にとって好ましい薬剤プロファイルを推察する手がかりを得た。 一方、世界各地域で薬剤の有効性・安全性がどの程度ばらつく(異なる)のか、ばらつきの理由は何かという観点からは、2019-20年度に行った米国FAERS(市販後の副作用報告データベース)の分析により、副作用の自発報告が医療環境・報告者の動機によって大きく影響を受けていることが明らかになった。本年度の研究では、さらに有効性と安全性のバランスについても患者の置かれている医療環境(社会)によって「望ましいと思う治療薬のプロファイル」が異なることが示された。企業は医薬品使用者のこれらの特徴・制約を踏まえたローカル戦略を実施していると予想されるが、企業が異なるローカル主体にどのような優先順位を与え、コンフリクトの調整を行っているのかが次の検討課題となる。 以上の成果は2021年度以降実施予定の分析と仮説を支えるものであり、本研究はおおむね順調に進捗しているものと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの成果を踏まえ、2021年度からはさらに次の点を含む検討を実施する。 第一に、2020年度の研究で明らかになった患者の薬剤治療プロファイルの好みのばらつきに関して、日本人患者での好みを具体的に調査する。リスクベネフィットプロファイルの特徴が明確な抗がん剤について仮想プロファイルを用いた選好分析を実施し、欧米の結果との相違を探ることとする。 第二に、製薬企業の開発・承認戦略とその結果として上市される薬剤の特徴の関係をさらに探索するため、特にバイオ医薬品に注目した検討を実施する。バイオマーカーによる患者絞り込み戦略を経て上市された新薬の有効性プロファイルを分析し、当該戦略が企業が期待するような効果(例:試験で得られた効果量の大きさ)を生んでいるか否か、バイオマーカーによる患者の絞り込みの状況とグローバル開発戦略の間にどのような関係があるかなどについて探索的な検討を行う。 第三に、世界各国の承認制度の違いに着目し、承認制度の違いがグローバル企業にどのような影響を与えているのかを探る手がかりを得ることとしたい。米国の抗がん剤等の迅速承認制度によって承認された薬剤に課された承認時の条件(追加で実施すべきと指示された試験など)と条件の充足状況を詳細に分析することにより、規制当局(米国FDA)の新薬エビデンスに対する要求(好み)を可視化できる可能性がある。規制当局が各国の新薬の事実上のゲートキーパーである以上、各地域・国で上市される新薬の有効性・安全性プロファイルのばらつきの一定程度は、規制当局の好み・振る舞い(そして、それらと製薬企業の好み・振る舞いの相互作用)に帰結可能であると考えられる。 研究の実施に際しては、2年間の研究成果(データベース)を活用し、また、現在の新薬開発のトレンド(バイオ医薬品、抗がん剤の重視)を反映したものとなるよう配慮したい。
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Research Products
(10 results)