2019 Fiscal Year Research-status Report
ナノ炭素材料が生体の異物処理機構に及ぼす影響と生体安全性に関する網羅的評価
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19K07233
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
灘井 雅行 名城大学, 薬学部, 教授 (00295544)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 美紀 名城大学, 薬学部, 准教授 (70345594)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ナノ炭素材料 / カーボンナノチューブ / 薬物輸送担体 / 薬物代謝酵素 / ラット肝細胞 / ヒト肝細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
薬物は主に肝臓で、シトクロムP450(CYP)が担う第Ⅰ相薬物代謝反応と、ウリジン二リン酸-グルクロン酸転移酵素(UGT)、硫酸転移酵素などが担う第Ⅱ相薬物代謝反応により代謝される。一方、外来異物などにより薬物代謝酵素活性が阻害されることや、発現が誘導されることが知られている。したがって、カーボンナノチューブ(CNT)などのナノ炭素材料を薬物輸送担体として用いるためには、これらが薬物代謝酵素に及ぼす影響を明らかにすることが不可欠である。本検討では、単層CNTとしてFH-P-SWCNTおよびSO-SWCNT(名城ナノカーボン、愛知)、ならびにカーボンブラック、フラーレン-C60およびフラーレン-C70、多層CNT(シグマアルドリッチ、USA)が、薬物代謝酵素の発現および活性に及ぼす影響について検討した。ラット肝細胞に0.1 mg/mL SO-SWCNT分散液を24時間曝露し、第Ⅰ相薬物代謝酵素の発現変動を、PCRアレイを用いて網羅的に解析したところ、CYPやアルデヒド脱水素酵素などの発現が減少していた。また、ヒト肝細胞を用いて同様の検討を行った結果、CYPやフラビン含有モノオキシゲナーゼの発現低下が認められた。一方、ラット肝第Ⅱ相薬物代謝酵素の発現についてはUGTや硫酸転移酵素の一部の発現が低下する傾向が認められたが、顕著な影響は観察されなかった。50人のドナーからプールされた市販のヒト肝ミクロソーム(コーニング、USA)を用い、0.1 mg/mL ナノ炭素材料を添加した時の薬物代謝酵素活性を検討したところ、SO-SWCNTはCYP2D6やCYP3A4/5酵素活性を弱いながらも阻害するのに対し、他のナノ炭素材料は影響を及ぼさなかった。さらに単層CNTにより第Ⅱ相薬物代謝酵素の発現は大きく変動しなかったが、薬物代謝酵素によって影響が異なることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今回の結果を得るために、ナノ炭素材料の細胞培養液への分散を検討し、細胞暴露実験に供する分散液を調製することができた。一方、実験動物への投与に用いる分散液については、毒性を示さない界面活性剤の種類と濃度を検討し、より高い濃度での分散を可能にする条件を明らかにすることを予定していたが、充分な検討には至らなかった。 ナノ炭素材料がヒト臓器由来細胞の生存率に及ぼす影響については、in vitroにおけるラット肝細胞を用いた検討において、0.1 mg/mL SO-SWCNT分散液を24時間曝露しても、細胞生存率が大きく変化せず、薬物代謝酵素の発現に及ぼす影響を検討することが可能であることを確認した。しかし、高濃度の分散液について検討が十分に行えなかったことから、実際にDDSのキャリアとして用いる濃度を想定した実験結果は得られていない。また、酸化ストレス状態を表す遺伝子、アポトーシスの指標となる遺伝子の発現に及ぼすナノ炭素材料の影響についても、実験の濃度設定が決定できなかったことより、検討に至っていない。 一方、臓器由来細胞の薬物代謝酵素の遺伝子発現および活性に及ぼす影響については、およそ予定していた検討を実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、昨年度に引き続いて、ナノ炭素材料が異物処理機能に及ぼす影響を明らかにするため、in vitroにおいて種々のヒト臓器来細胞に、濃度および時間を変化させて暴露した後、代表的な薬物トランスポーター(OAT、OCT、P-GPなど)の遺伝子発現量を、PCRアレイを用いて網羅的に解析することを中心に検討を進める。また、小腸上皮細胞には多くのトランスポーターが発現していることが知られていることから、ヒトiPS細胞由来腸管上皮細胞(ヒトiPS由来小腸上皮細胞)についても、ナノ炭素材料を暴露した時の各種トランスポーターの発現変動について観察する。一方、大腸由来細胞および尿細管由来細胞については、ナノ炭素材料を暴露した時の、基質薬物の輸送活性の変化について、Transwell上で培養した細胞にナノ炭素材料を、濃度、暴露時間を変化させて暴露するなどの方法により、各トランスポーターの基質となる薬物の輸送活性がナノ炭素材料の暴露によりどのように変化するかについて検討することを予定している。 また、ナノ炭素材料を実験動物(マウスおよびラット)に経口および静脈内投与した後、血液生化学検査を実施し、肝障害や腎障害の有無、および、生理機能の変化を検討するとともに、消化管、肝臓、腎臓を採取し、代表的な第Ⅰ相および第Ⅱ相薬物代謝酵素、薬物トランスポーターについて、遺伝子およびタンパク質発現量及び活性(機能)を評価する。さらに、ナノ炭素材料を投与した実験動物において、上記の薬物代謝酵素やトランスポーターの基質となる薬物の体内動態について検討し、in vitroの実験結果との整合性について考察する予定である。
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