2020 Fiscal Year Research-status Report
聴覚と平衡覚を担う内耳感覚上皮の形成とその配置の分子機構の解明
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19K07273
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
佐藤 滋 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70306108)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 感覚器プラコード / 蝸牛有毛細胞 / 内耳 / 難聴 / 転写調節 / エンハンサー / ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
胎生17.5日の蝸牛有毛細胞をAtoh1-EGFPマウス胚より単離し、ATAC-seq解析を行うことで、Six1遺伝子のTAD(topologically associating domain)内に7ヶ所のオープンクロマチン領域(ATAC1~ATAC7)を同定した。これらはSix1遺伝子の転写を有毛細胞特異的に活性化するエンハンサーの候補となる。ATAC1~7を1.1~1.4 kbのDNA断片としてマウスゲノムより単離し、下流にレポーター遺伝子(EGFPとmRFP1)を連結したレポーターコンストラクトを作製した。また、高効率かつ高頻度でエンハンサー活性を検出・追跡できるように、Tol2システムを利用したレポーターコンストラクト(レポーター遺伝子はLacZとEGFP)も作製した(理研BDR・隅山健太先生との共同研究)。 耳プラコードや耳胞で転写を活性化する進化的保存性が最も高いエンハンサーとして同定されていたATAC1を欠失するマウスの作製に成功した(理研BRC・天野孝紀先生との共同研究)。驚くべきことに、ATAC1をホモで欠失するΔATAC1マウスも胚性致死ではなく、明らかな形態や行動の異常も見られなかった。この結果から、ATAC1が欠失していても、耳胞は形成され、耳胞以後の内耳形成も正常に進行し、有毛細胞分化にも劇的な異常は生じていないとが示唆された。Six1エクソンの最も近傍に位置するATAC2は、耳胞腹側で転写を活性化するエンハンサーとして同定されていた。そこで、ATAC1 とATAC2を同時に欠失するΔATAC1/2マウスの作製に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Tol2トランスポゾン配列を搭載したコンストラクトの構築に時間を要したが、無事完了した。蝸牛有毛細胞のATAC-seq解析で同定した7ヶ所のオープンクロマチン領域について、エンハンサー活性の有無を検討する準備が整った。蝸牛外感覚上皮への遺伝子導入は、発生が進むと有毛細胞自身と支持細胞の頂端部の構造が特殊化するため、導入効率が著しく低下する。そのため、初期蝸牛感覚上皮へのエレクトロポレーション法を採用することとし(広島大学・林利憲先生との共同研究)、解析に着手した。フィルター上での培養と遺伝子導入は、同定したエンハンサーの重要配列のマッピングの際も極めて有用な技術となる。オープンクロマチン領域(エンハンサー候補)を欠失するマウスの解析は、ゲノム編集技術により順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
ΔATAC1ホモ個体およびΔATAC1/2ホモ個体の表現型(行動、聴力、内耳構造、細胞分化)の解析は重量であり、来年度も継続して行う。ユニークな初期蝸牛感覚上皮へのエレクトロポレーション法を用いて、エンハンサー活性の解析や重要なエレメントの同定を進める。この技術は、シグナル分子や受容体の過剰発現やノックダウン、変異型ゲノム編集酵素を用いたエンハンサー機能の改変といった実験にも利用できるため、それらも駆使して、内耳形成原理の理解を目指す。
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Causes of Carryover |
今年度はコロナウイルス対応、動物飼育室のクリーン化等が重なり、予定していたマウスの輸送や蝸牛培養実験の開始日程が遅れたため。次年度使用となった予算は、遺伝子改変マウスの輸送費、蝸牛培養に用いる野生型マウス、蝸牛培養用の器具、器官培養、分子生物学・生化学、組織化学実験の試薬等に使用する。
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Research Products
(2 results)