2022 Fiscal Year Research-status Report
聴覚と平衡覚を担う内耳感覚上皮の形成とその配置の分子機構の解明
Project/Area Number |
19K07273
|
Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
佐藤 滋 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70306108)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 蝸牛有毛細胞 / 内耳 / 難聴 / 転写制御 / 組織特異的エンハンサー / ゲノム編集マウス / プラコード / 感覚器形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
内耳有毛細胞が特異的に標識されるAtoh1-EGFPマウス胚より蝸牛有毛細胞を単離し、ATAC-seq解析を行うことでSix1遺伝子周辺に同定した7種類のオープンクロマチン領域(ATAC1~ATAC7)の解析を行った。ATAC1とATAC2は進化的に保存されたエンハンサー21とエンハンサー12を含んでいる。エンハンサー21は、内耳形成過程において、耳プラコードから転写を活性化し、内耳の原基である耳胞の段階まで転写を活性化する。一方、エンハンサー12は形成された耳胞の腹側で転写を活性化する。 まず、これら7種類のエンハンサーにLacZ遺伝子を連結したレポータープラスミドを用いて、内耳形成後期におけるエンハンサー活性の検出を試みた。胎生13.5日マウス胚より蝸牛管上皮を取り出し、一晩培養した蝸牛管上皮にエレクトロポレーションによりレポータープラスミドの導入を試みた。ATAC1~7のいずれについても有毛細胞特的なエンハンサー活性を検出できていない。導入・培養方法の改善、HSV-TK以外のプロモーターの検討を進めている。 次に、理研BRC・天野孝紀先生との共同研究により、ATAC1とATAC2を単独または二重で欠失するエンハンサー欠失マウスの解析を行った。ATAC1、ATAC2、ATAC1/2二重欠失マウス明らかな形態や行動の異常は見られなかったが、ATAC1/2二重欠失マウスは重篤な行動異常を示すことがわかった。二重欠失マウスは頭部をくり返し上げる動作(head tossing)と旋回行動(circling)を示し、内耳機能の異常が強く示唆された。成体マウスの内耳を取り出して観察しところ、内耳が小さく、正常な形態の蝸牛が存在しないこともわかった。内耳の形態異常について、より詳細な解析を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
蝸牛感覚上皮の器官培養とエレクトロポレーション法による遺伝子導入は広島大学・林利憲先生との共同研究により進めている。妊娠13日目のマウスより取り出し、コラーゲン/マトリゲルでコートしたカルチャーインサート上での蝸牛管上皮の培養には成功したが、エレクトロポレーションによる遺伝子導入の効率が上がらず、現在、電極の改良とパルス条件の検討を進めている。 エンハンサー欠失マウスについては、主に動物飼育スペースが限られていること、マウスの繁殖効率が良くないこと等から解析に用いる胚が順調に得られておらず、解析がやや遅れる状況となっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
行動異常を示すATAC1/2欠損マウスの表現型(行動、聴力、内耳構造、細胞分化)の解析は重要であり、来年度も継続して行う(そのために助成期間の二度目の延長を申請し、ご承認いただきました)。他にはほとんどやられていない蝸牛感覚上皮へのエレクトロポレーション法を用いて、エンハンサー活性の解析や重要なエレメントの同定を進める。この技術は、シグナル分子や受容体の過剰発現やノックダウン、変異型ゲノム編集酵素を用いたエンハンサー機能の改変といった実験にも利用できるため、それらも駆使して、内耳形成の中核となるSix1遺伝子の発現制御、そして内耳形成原理の理解を目指す。
|
Causes of Carryover |
エンハンサー欠失マウスについては、主に動物飼育スペースが限られていること、マウスの繁殖効率が良くないこと等から解析に用いる胚が順調に得られておらず、解析がやや遅れる状況となっているため。
|