2021 Fiscal Year Research-status Report
幹細胞制御におけるニッチ細胞の糖鎖多様性に関する研究
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19K07275
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
菅原 大介 杏林大学, 医学部, 助教 (00390766)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ニッチ細胞 / 組織再生 / 糖鎖 / フコシル化糖鎖 / 大腸 / 腸管上皮 |
Outline of Annual Research Achievements |
傷害された上皮が適切に再生するには、幹細胞やそこから生じた未分化細胞がニッチ細胞による精緻な増殖・分化の制御を受けることが重要である。しかし、その機構には未解明な点が多い。これまでに本研究代表者は、マウス大腸の陰窩底部において、発現する糖鎖の違いによりニッチ細胞は2種類に分けられることを明らかにした。複数のニッチ細胞の存在は、幹細胞を制御するための精緻な機構の一部と予想された。このようなニッチ細胞が幹細胞制御にどのように関与するか明らかにすることが本課題の目的である。 本年度はこの細胞の性質をさらに明らかにした。生理状態において、BC2LCNレクチンが結合する糖鎖を発現するニッチ細胞(BC2LCN陽性細胞)は、腸管分泌系上皮細胞のマーカー分子を発現することがわかった。また、この細胞は細胞分裂をしていない、成熟した細胞であることが分かった。これまで大腸陰窩底部は、幹細胞と未分化細胞により構成されると考えられていたが、成熟した分泌系上皮細胞が存在することを明らかにした。また、分泌系上皮細胞である杯細胞、腸内分泌細胞、タフト(刷子)細胞のマーカーはBC2LCN陽性細胞において陰性であり、これらとは異なる細胞種であった。 本課題では、薬剤誘導性の腸炎により傷害された大腸上皮を上皮再生過程のモデルとして検討している。昨年度までに、上皮再生過程においてBC2LCN陽性細胞が大きく増加することを明らかにした。今年度、この細胞はProtein atonal homolog 1 (Atoh1) 陽性であることを明らかにした。Atoh1陽性上皮細胞は、上皮再生に重要であると複数の研究グループが報告している。上皮再生過程において、Atoh1を発現するBC2LCN陽性細胞の動態を検討することは、炎症性腸疾患等における治療の開発や、その発症・病態機構の理解を大きく進展させると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症蔓延の影響のため、前年度に続き、当該年度も計画に支障が生じた。計画遂行に不可欠なコンフォーカル顕微鏡の故障・不具合が重なったが、コロナ禍に伴う半導体不足のため必要な交換部品の入手に時間を要し、円滑に研究を進めることが難しかった。計画では当該年度が最終年度であったが、このように新型コロナウイルス感染症の影響の大きさを踏まえ、補助事業期間延長を申請し、承認を受けた。 一方では計画に沿った免疫組織化学的な検討により、計画時には予想できなかった成果が得られた。モデル動物組織の調製は終了し、上皮再生の進行の時間軸に沿った目的分子の発現分布の変化の検討も順調に進んでいる。以上のような状況を踏まえ、総合的には、やや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本課題で着目しているBC2LCN陽性上皮細胞は、今年度の検討から上皮再生に機能的に関与する可能性がさらに示された。再生過程1日目から28日目までの組織試料は調製済みである。この一連の試料を用いて、この細胞の上皮再生における動態を免疫組織化学的解析により明らかにする。また、大腸の近位-遠位軸方向の各部位における同細胞の発現分布に関する検討は順調に進行している。目的の糖鎖が付加したタンパク質候補としてMucin2、Anterior gradient protein 2 、Calcium-activated chloride channel regulator 1を同定した。これらのタンパク質の糖鎖が近位-遠位軸方向および再生過程においてどのように変化するか検討を進める。このような検討から、目的のニッチ細胞が幹細胞制御へどのように関与するか明らかにする。
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Causes of Carryover |
当該年度は、複数の学会への参加・出張を予定していた。しかし、新型コロナウイルス感染拡大防止を目的とした所属大学の研究活動指針を踏まえ、昨年度同様に、オンライン参加、もしくは現地開催の学会は不参加とした。そのため、学会発表のため計上した出張旅費の支出が大きく減じた。また、研究遂行に必須である研究機器において複数回、故障・不具合が生じた。修理までに時間を要したため、研究に遅れが生じた。そのため研究に用いる試薬・消耗品費への支出額も予定を下回った。以上の理由により次年度使用が生じた。最終年度となることから論文出版に関連する費用を含め、研究成果をまとめるために繰越分を支出する。
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Research Products
(2 results)