2019 Fiscal Year Research-status Report
転写因子 Dach1 による組織特異的な血管内皮細胞分化調節メカニズム
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19K07278
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
早坂 晴子 近畿大学, 理工学部, 准教授 (70379246)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 血管内皮細胞 / リンパ節 / 転写因子 / リンフォトキシン |
Outline of Annual Research Achievements |
高内皮細静脈 (High endothelial venules : HEV) は、背の高い内皮細胞や厚い基底膜を持つなど、他の血管とは異なる形態的特徴を持ち、リンパ球を血中から二次リンパ組織へと移行させる特殊な血管である。HEV は脾臓を除く二次リンパ組織にのみ存在するが、特定の組織でのみ HEV が形成される分子メカニズムは解明されていない。これまでの研究から、HEV 形成時期に高発現する 5 つの転写因子が同定され、この内 Dach1 のみが HEV 形成時期の未熟 HEV を含む血管に限局して発現することを明らかになった。また血管特異的 Dach1 欠損 (Dach1-cKO) マウスリンパ節ではControl と比べてHEVマーカー陽性細胞の割合の減少傾向がみられたことからDach1 が血管およびHEV形成に関与する可能性が考えられた。 一方、恒常的にDach1を発現するマウス (Dach1-Tg)では特定のリンパ節においてHEVマーカー発現パターンの変化が検出された。フローサイトメトリーによる解析では、Dach1-Tg マウスリンパ節において血管内皮細胞の増加および HEV 内皮細胞の増加がみられた。またマウス骨髄由来繊維芽細胞にDach1を発現させ、HEV 発現遺伝子の発現変化が生じる可能性について検討したところ、Dach1導入細胞をリンフォトキシンで刺激した場合において相乗的にHEVマーカー遺伝子の一部に発現上昇がみられた。以上の結果から、Dach1 がリンパ節血管形成に促進的に作用すするとともに、HEV形成あるいはHEV選択的分子の発現を促進する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、Dach1 が直接転写調節する遺伝子の特定を目指した。本年はDach1 が一部の HEV 関連遺伝子発現制御に関与する可能性について、、In vitroの細胞培養系を用いて明らかにすることができた。またDach1単独での効果に加え、リンパ節ストローマ細胞から分泌されるサイトカイン (リンフォトキシン:LT) により効率的に発現調節される可能性を示唆する結果が得られた。Dach1のターゲット遺伝子候補が明らかになる一方で、Dach1自身を制御する上流因子の解析については今後行う必要がある。Dach1はHEV 形成期および冠状動脈形成期にのみ一過的に発現し、成体組織では発現消失することが明らかになっており、この一過的発現はDach1による血管形成制御に重要であると推測されるが、その発現調節機構はほとんどわかっていない。別の転写因子であるNkx2.3がDach1発現を負に調節し、組織特異的血管形成を上流から制御する可能性が考えられるが、これを証明するためにはNkx2.3欠損マウスの導入が必須であるが、手続きに時間を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
血管特異的 Dach1 欠損は、末梢リンパ節血管のHEVマーカー遺伝子発現および血管形成を減少させる可能性が示唆された。反対に、Dach1-Tg マウスリンパ節において血管内皮細胞の増加および HEV 内皮細胞の増加がみられた。今後、Dach1 欠損マウスおよび野生型マウス、トランスジェニックマウスの血管内皮細胞を 細胞分離し、遺伝子発現解析をおこなうことで、HEV 形成を制御する Dach1 のターゲット分子を同定可能であると考える。In vitroの細胞培養系ではマウス骨髄由来繊維芽細胞を用いたが、今後Dach1 遺伝子を導入した ES 細胞を用いて血管内皮細胞分化誘導実験を行う。この実験からDach1 と LT シグナルは強調して働き、HEVマーカー発現を促進する可能性が明らかになる。
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Causes of Carryover |
(理由)当初の予定では遺伝子組換えマウスの系統をさらに増やして飼育する予定であったが、SPF動物実験施設で汚染が発覚し飼育スペースの拡大が予定通りに行えなかったため、飼育に関する費用が予定より少額になった。 (使用計画)SPF動物実験施設で汚染が発覚したため、マウスコロニーの再構築を行う費用に充当する。本年度は飼育動物を1系統受精卵で導入する予定であり、個体化のための費用が必要である。また遺伝子解析も行わなければならにため、消耗品を購入する。
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