2019 Fiscal Year Research-status Report
交感神経活動を制御する視床下部オキシトシン神経系の中枢神経回路の解明
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19K07300
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
福島 章紘 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (60799782)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 交感神経 / オキシトシン / 視床下部室傍核 / 褐色脂肪熱産生 / 延髄縫線核 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,情動にともなう交感神経反応表出時におけるオキシトシン神経系の関与を明らかにすることである.喜怒哀楽や緊張,恐怖などの情動が生じる際,血圧・心拍変動をはじめとした自律神経反応も同時に誘導される.交感神経系の活動は延髄縫線核を含む下行性神経路により制御されているが,研究代表者らはこれまでに,オキシトシンニューロン選択的に任意の遺伝子を発現させるアデノ随伴ウイルスを開発・使用することで,視床下部室傍核オキシトシンニューロンが延髄縫線核へ投射していることや,延髄縫線核においてオキシトシン作動性軸索を光遺伝学的に刺激すると褐色脂肪熱産生が誘導されることを見出している. 今年度は,上記実験で用いたアデノ随伴ウイルスをさらに応用・改変することで,延髄縫線核からの逆行性感染によりオキシトシンニューロン選択的にCreリコンビナーゼ発現を誘導するウイルスの開発を試みた.これまでに6種類のウイルスを作製し,それらの細胞選択性や発現効率を検討してきたが,実用に足るウイルスを見いだせておらず,現在も開発を継続している.同じく今年度に実施を計画していたオキシトシンニューロンに投射するシナプスの電気生理学的解析については,スライスパッチクランプ法の実験系を確立することができた.また本オキシトシン神経系の生理学的意義をさらに検討するため,麻酔下ラット延髄縫線核にてオキシトシン性軸索の光遺伝学的刺激後,興奮性神経伝達物質であるNMDAを同じく延髄縫線核に微量注入する実験をおこない,オキシトシンが延髄縫線核交感神経プレモーターニューロンの興奮性を上げること,すなわち本神経系が他の上位脳領域からの興奮性信号を増強しており,交感神経活動に対して促進的に働くことを示唆する結果を得ることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の主な研究計画は,延髄縫線核へ投射するオキシトシンニューロンを起点とする単シナプス性逆行標識をおこない.オキシトシンニューロンの活動を制御する脳領域を同定することであった.当初の計画では,すでに作製済みのウイルス(オキシトシンニューロン選択的に緑色蛍光タンパク(GFP)を発現させるアデノ随伴ウイルス)の血清型を改変することで,延髄縫線核からの逆行性感染によりオキシトシンニューロン選択的なCreリコンビナーゼ発現を誘導するウイルスを新たに作製する予定であったが,現在我々が用いている作製方法では,十分なウイルス濃度を確保することが困難であった.次に,解決策として,オキシトシンニューロンには順行性Cre発現ウイルスを感染させ,目的とする遺伝子発現用のウイルスを縫線核から逆行感染させることを計画し,これまで複数種のウイルスを作製したが,オキシトシンニューロン選択的なCre発現の成功には至っていない. また今年度は,オキシトシンニューロンからの単シナプス性逆行標識法を確立した後,光遺伝学的手法を用いたシナプス伝達の電気生理学的解析をおこなう予定であったが,単シナプス性逆行標識の確立に至っていなかったため,オキシトシンニューロン選択的に蛍光タンパク標識型光感受性陽イオンチャネル(ChIEF-mCherry)を発現するウイルスを代用することで,ラット視床下部でのスライスパッチクランプ法の準備を進めた.これについては,mCherry発現細胞がオキシトシン陽性であることや,光刺激によって活動電位を発生させることが確認できたことから,スライスパッチクランプ法の実験系は確立できていると考えられ,単シナプス性逆行標識が成功し次第,速やかに着手できる状態にある.以上の進捗状況に鑑み,本研究は現段階ではやや遅れている状態にあると判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
オキシトシンニューロン選択的Cre発現ウイルスの開発は引き続きおこなう予定である.まずは,選択性がありながらも十分な濃度を確保できなかったウイルスについて,作製スケールを大きくすることで濃度を上げることを試みる.また逆行感染型アデノ随伴ウイルス以外にも,同じく逆行性感染が報告されているイヌアデノウイルス(CAV-2)の導入や,Cre/loxPシステムの代替としてFLP/frtシステムへの切り替えも検討する. 次年度以降に計画していた覚醒下ラットを用いたオキシトシンニューロン活動の観察については,オキシトシンニューロン群を活性化する行動実験の選定を前倒しで開始しているので,データをまとめて,今後使用する実験系を決定する.
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Causes of Carryover |
今年度に使用を計画していた予算は,オキシトシンニューロン選択的Cre発現後に用いるG遺伝子欠損狂犬病ウイルスの作製と,その後の電気生理学的解析に割り当てたものであったが,Cre発現ウイルスの開発が継続中のため予算の使用が生じなかった.なお,Cre発現ウイルスの開発やスライスパッチクランプ法の実験系立ち上げは現存するもので可能であった.次年度もCre発現ウイルスの開発を継続するため,未使用額は当初の計画通り,G遺伝子欠損狂犬病ウイルスの作製と電気生理学的解析に使用することを計画している.
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