2020 Fiscal Year Research-status Report
蛍光イメージングによる創傷治癒過程の血管新生におけるペリサイトの役割の解明
Project/Area Number |
19K07307
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
弓削 進弥 日本医科大学, 先端医学研究所, 助教 (50723532)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福原 茂朋 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (70332880)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 血管新生 / ペリサイト / 皮膚 / 創傷治癒 / 成体 / ゼブラフィッシュ / イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
正常組織の血管では、血管内皮細胞が内腔を形成し、その周囲をペリサイトが被覆して、安定な構造が維持されている。しかし、創傷などで組織が虚血状態に陥ると、組織の修復とともに血管新生が誘導され、その過程にペリサイトも関与する。私たちは、ゼブラフィッシュの蛍光生体イメージングにより、生きている成魚の皮膚の創傷治癒過程を解析し、同一個体を経時的に観察して、創傷時の血管新生と組織修復におけるペリサイトの役割の解明を試みてきた。 2年目では、血管のペリサイトを選択的に消失させられる遺伝子組換え魚を新たに作製した。1年目に解析した魚では、血管のペリサイトのいくらかが可視化できなかったり消失できなかったりしたためである。新たに作製した魚では、皮膚血管の全てのペリサイトを可視化でき、かつ消失させることができた。 同魚の皮膚でペリサイトを消失させたところ、血管構造に大きな変化は見られなかった。また、消失後に同一部位を経時的に観察したところ、消失から3日程度で血管周囲にペリサイトのマーカーを発現する細胞が新たに出現し、血管を被覆したのち次第にペリサイト様の形態を示すようになった。これらの細胞は特に細動脈側で多く見られた。この結果から、ペリサイトは新たに出現する可能性が示唆された。 次にペリサイトを消失させた魚の皮膚に創傷を施したところ、血管再生はペリサイトの再被覆を待たずに起こったが、再生途上の血管の湾曲、既存の血管からの出芽が、コントロールに比べて増加した。また、ペリサイトの増殖に関与するシグナルを阻害する薬剤で処理したところ、血管再生とペリサイトの再被覆はともに阻害された。 以上の結果から、ペリサイトは、再生時に動脈側を中心に新たに出現すること、損傷血管の伸長を調節すること、既存の血管からの出芽を抑制していることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の基本となる遺伝子組換え魚の樹立では、いくらか困難が生じたが、最終的に解決できた。すでに樹立していた魚には、血管のペリサイトのいくらかが可視化できなかったり消失できなかったりした問題が生じた。その後作製した魚でも、同様なモザイク発現やペリサイトの蛍光が暗すぎる問題などが生じたが、最終的にベストの魚を樹立できた。ただしこの点で多くの時間を費やしてしまった。 新たに樹立した魚を用いた、成魚の皮膚のペリサイトの消失実験は軌道に乗り、ペリサイトが消失した血管へのペリサイトの再被覆、創傷皮膚でのペリサイトを消失した血管の再生、創傷皮膚での内皮細胞―ペリサイトのシグナルの関連の解析は順調に進んでいて、ペリサイトの再生、ペリサイトの損傷血管の再生への関連などで多くの新しい知見を得られ始めている。 いっぽう、皮膚血管で、正常血管とペリサイトを消失させた血管の内皮細胞のRNAシークエンスによる遺伝子発現の網羅的解析は、進行途上である。上記の遺伝子組換え魚の作製し直しに加えて、内皮細胞を単離するフローサイトメトリーの実験系にも困難が生じたためである。ゼブラフィッシュ成魚の皮膚の血管内皮細胞の単離の実験は、胚や稚魚の内皮細胞の単離の実験に比べると、世界的にもまだまだ少ない。実験系の樹立と安定化で試行錯誤している。また、大学の共通機器フローサイトメーターの調子が1年に渡って悪かったことも副因である。 上述の実験と並行して、若齢から老齢のゼブラフィッシュで、加齢の際の皮膚の血管とペリサイトの変化を解析することを続けており、これは本研究の将来の発展のためである。 以上より、2年目の研究は、予定通りに進まなかったが、改めて研究に必要な動物・実験を確実に安定させたため、この先全体的に順調に進むと予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目では、まず、ペリサイトの消失と再生、および創傷皮膚での血管再生への関与について、結論を出す。ペリサイトを消失した血管にペリサイトがいつどのように再被覆するのか、再被覆するペリサイトは、出現・分裂・遊走それぞれどのようにして生じるのか、創傷皮膚での血管再生時にペリサイトはどのような役割を果たすのかという問いを重点的に解明する。そのために、研究室で樹立したゼブラフィッシュ成魚の蛍光生体イメージングを駆使しながら、同じ個体を経時的に1-3ヵ月観察して解析していく。 次に、成魚皮膚のペリサイトが被覆する正常血管の内皮細胞と、ペリサイトを消失させた血管の内皮細胞を単離して、RNAシークエンスで両者の遺伝子発現の違いを網羅的に解析し、皮膚血管でのペリサイトの役割を、内皮細胞やペリサイトと関連する遺伝子の同定を行ないながら解明していく。特に、ペリサイトが血管に被覆するには細胞間接着に重要なNotchシグナルが関与していることが予想されるため、Notchシグナル関連の遺伝子は1つの研究標的である。 3年目で、創傷治癒の血管新生におけるペリサイトの役割を総合的に明らかにして本研究をまとめていく。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により、2020年度に、緊急事態宣言下で研究が一時期滞ったこと、学会や研究での出張が激減したこと(ほぼ全てオンライン)、および現成果のいくらかを論文にまとめて投稿したことなどにより、2021年度にいくらか繰り越すことになったため。
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Remarks |
本研究には、研究協力者の石井 智裕が大きく貢献した。
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Research Products
(4 results)