2019 Fiscal Year Research-status Report
RalGAPとビグアナイドによる腫瘍抑制の分子機構
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19K07342
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
白川 龍太郎 東北大学, 加齢医学研究所, 助教 (50581039)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Ral / RalGAP / metformin / phenformin / biguanide |
Outline of Annual Research Achievements |
Rasファミリーの低分子量GTP結合タンパク質RalはRalAとRalBからなり、細胞の増殖、成長、遊走等、多様な機能を担っている。Ralの恒常的な活性化はがん化、浸潤・転移に重要である。われわれは、これまでにRalの不活性化因子、Ral GTPase-activating protein (RalGAP)を分子同定し、ノックアウトマウスを用いた解析によりRalGAPの触媒サブユニットの1つRALGAPA2の発現喪失によるRalの異常な活性化が膀胱がんの浸潤・転移に重要であることを明らかにした。本課題では、RALGAPA2の発現が前立腺がんでも低下しており、前立腺がん細胞の浸潤性に関わっていること、およびマウス前立腺がんモデルにおいてRalgapa2の喪失が前立腺がんの浸潤を促進することを明らかにした(Uegaki et al, Carcinogenesis, 2019)。また、口腔がん患者検体においてRALGAPA2の発現が正常上皮に比べがん組織で低下しており、RALGAPA2の発現が低い口腔がん患者は生存率が低下していることを報告した(Gao et al, J Dent Res)。がん組織におけるRALGAPA2の発現低下にはRALGAPA2遺伝子のDNAメチル化やヒストン修飾が関与することが考えられた。大腸がんにおいてRALGAPA2の発現低下に伴うRalの活性化が、MMPの発現やインフラマソームの活性化を介してがんの浸潤を促進することを明らかにした(Iida et al, Cell Mol Gastroenterol Hepatol, 2020)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、RalGAPと前立腺がん、口腔がん、大腸がんとの関係について論文報告した。いずれもRalGAPの発現低下によるRalの恒常的な活性化が、がんの浸潤性の促進に関与することを示した。Ralは発がんRas下流で活性化されることが知られるため、本課題では変異Rasの関与がより明らかな膵臓がんをモデルとして研究を進めた。代表的な膵臓がん細胞株であるPanc1細胞、MIA PaCa-2細胞においてRalGAP各遺伝子をCRISPR-Cas9によりノックアウトしたところ、特にRALGAPBノックアウト細胞においてRalA/Bの著しい活性化を認めた。予想された通りこれらの細胞はin vitroで強い遊走、浸潤能を示した。さらにこれらの細胞をヌードマウス皮下、および脾臓に移植し、増殖能、浸潤・転移、播種を検討したところ、RALGAPBノックアウト細胞は強い転移能を示した。発がんRas誘導性の膵臓がんにおけるRalの役割をin vivoで明らかにするために、LSL Kras G12DマウスとRalgapb floxedマウス、膵臓特異的cre発現マウス(Pdx1-cre)を掛け合わせ、解析を進めた。がんの浸潤・転移に関わるRalの下流シグナリング経路は多くが未知であるが、代表者らは新規Ral結合因子を見いだしておりCRISPR-Cas9によりノックアウト細胞等を作成した。血糖降下薬であるビグアナイド化合物によりRalの活性が抑制されることを見いだし、その作用メカニズムを解析した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は膵臓がんをモデルとしてRalの恒常的活性化が、がん化、がん悪性化に及ぼす影響を明らかにする。マウスモデルにおいてK-Ras変異のみで膵臓がんが悪性化することはまれであるため、Ralgapb floxedマウスと掛け合わせることでK-Ras誘導性の膵臓発がんにおけるRalの役割を解析する。抗糖尿病薬であるビグアナイド化合物は、血糖降下作用に加え抗腫瘍作用があることが知られる。その作用機序は不明であるが、代表者はビグアナイドがRalを不活性化することを見いだした。また、ビグアナイド化合物phenforminによりRalGAPがリン酸化されることを報告している(Cell Signal, 2014)。本研究計画ではビグアナイド処理した細胞より、RalGAPを免疫沈降し質量分析にてリン酸化部位を特定する。RalGAPはAMPKを含め多くのキナーゼによるリン酸化のコンセンサス配列を有している。ビグアナイド依存性にリン酸化される残基が特定されればアラニン置換体を作製し、レンチウイルスベクターを用いて細胞に導入し、ビグアナイド添加によるRalの活性変化を解析する。また、AMPKノックアウト細胞を用いてビグアナイドのRal抑制効果を検討する。もし、これらの細胞でビグアナイドによる阻害が見られない場合、Ral阻害はAMPKによるRalGAPのリン酸化を介している可能性が高い。その場合、リン酸化がRalGAPの細胞内局在、活性に及ぼす影響を細胞生物学的、生化学的手法にて解析する。一方、ビグアナイドが直接RalGAP活性に影響している可能性もあるため、リコンビナントRalGAPを用いたGAPアッセイにビグアナイドを加え直接の関与を検討する。
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