2019 Fiscal Year Research-status Report
血小板の産業的生産に向けた巨核球成熟のシングルセルアプローチ
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19K07344
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
曽根 正光 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (90599771)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 血小板 / iPS細胞 / RNA-seq / シングルセル |
Outline of Annual Research Achievements |
血小板は血液に存在する無核の微小細胞で、主要な止血因子として働く。現在、血小板製剤の供給は献血のみに依存し、将来、社会の少子高齢化に伴って深刻なドナー不足に陥る可能性が存在する。この問題に対処するため、私たちはiPS細胞(人工多能性幹細胞)技術に基づく血小板の工業的生産を目指している。2014年にiPS細胞から血小板前駆細胞である巨核球を誘導し、Doxという薬剤によって増殖を促進する遺伝子を発現させることのできるimMKCL細胞株が樹立された。imMKCLはDox存在下で無限に増殖でき、Doxを除去すると分化を開始し、多核化、細胞体サイズの増大、細胞膜の肥大、proplatelet(胞体突起)の形成という一連の成熟過程をわずか5日で完了し、血小板を産生するというマスターストック細胞としての優れた性質を有する。しかしながら、巨核球分化の最終段階であるproplateletの形成が見られるのは、Dox除去後imMKCL全体の10%未満で、残りの細胞は血小板を生み出さず生産効率の低下を招いている。そこで、本研究では、血小板産生プロセスの最終段階であるproplatelet形成という形態的特徴を信頼のおける指標として、最新の細胞分取技術を用いて、シングルセルレベルでの網羅的発現比較解析を行うことでこの問題をクリアし、血小板放出のメカニズムを明らかにすることを目標とする。 当該年度においては、多くのシングルセルを対象とした発現プロファイルの比較解析を行うことができた。その結果、proplateletの形成が見られる細胞群は、それが見られない未熟な細胞群とは異なる遺伝子発現プロファイルを示した。今後、両細胞群で差のある遺伝子に注目し、解析を進めることでimMKCLの成熟を妨げる要因を排除し、より効率的な人工血小板の製造を実現できる可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、血小板産生プロセスの最終段階であるproplatelet形成という形態的特徴を信頼のおける指標として、最新の細胞分取技術を用いて、シングルセルレベルでの網羅的発現比較解析を行うことでこの問題をクリアし、血小板放出のメカニズムを明らかにすることを目標とする。 当該年度においては、まず、マイクロラフトと呼ばれる構造が敷き詰められたQIAscoutという装置にDox除去後3日目のimMKCLを低密度で播種した。翌日、顕微鏡下で、proplatelet陽性あるいは陰性の1細胞が接着したマイクロラフトを分取し、次世代シーケンサーで発現比較解析を行った。主成分解析を行うと、一部オーバーラップするもののproplatelet陽性と陰性の細胞群は分離する傾向があった。また、Dox除去後、経時的に取得したimMKCL集団のRNA-seqデータと比較すると、proplateletの有無と相関を示す遺伝子群は、細胞集団の経時的変化をドライブしている遺伝子群とは異なっていた。すなわち、Dox除去により細胞増殖因子の発現が降下することで自然と引き起こされる転写カスケードとは異なる分子機構によって、proplatelet形成とそれに続く血小板産生が制御されている可能性を示唆している。 従って、当該年度に行ったシングルセルレベルでの発現比較解析により、proplatelet形成に重要な役割を果たす遺伝子の候補が多く得られた。今後、これらの機能解析によりこれまで知られていなかった血小板放出の新たなメカニズムが明らかになると期待されることから進捗状況は概ね順調と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に得られた、proplateletの有無により異なって発現する遺伝子群に関し、摂動を加え、imMKCLによる血小板産生に対しどのような影響を与えるかを解析する。すなわち、proplateletを有する細胞で高い発現を示す遺伝子群についてはレンチウイルスベクターを用いた過剰発現やアゴニストを投与することでその遺伝子が関与する経路の活性化を促し、逆にproplateletを有する細胞で低い発現を示す遺伝子群についてはshRNAベクターや阻害剤を用いた機能阻害を行い、血小板産生効率を改善する手法の創出を目指す。 また、近年、マウス生体における巨核球のライブイメージングと物理学的解析により、血流の持つ「乱流」成分が血小板放出に重要な役割を果たすことが明らかとなり、各種乱流変数を制御可能なバイオリアクターにより、従来法より高効率で止血機能の高い人工血小板作製法が開発された(Cell, 2018)。シングルセル解析に基づく新たな血小板産生法を、バイオリアクターと組み合わせることでさらに高効率高品質な血小板の作製へと結びつけることを目指す。
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Causes of Carryover |
当該年度途中、2020年1月に申請者の所属が千葉大学から北海道大学へ変更になったことから、本研究を遂行するために、翌年度より新たな研究環境をセットアップする費用が生じたため。翌年度分として請求した助成金と合わせて、新たな研究室で用いる分子生物学用研究機器や什器(約120万円)や試薬(70万円)を購入する予定である。
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