2019 Fiscal Year Research-status Report
サルコペニア病態におけるサテライト細胞の加齢性変化の寄与
Project/Area Number |
19K07396
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
松崎 京子 (有本京子) 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (90568932)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | サルコペニア / サテライト細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、日本の高齢要介護者の背景病態の25%は、加齢に伴う筋萎縮=サルコペニアによる運動障害であり、近い将来、脳血管障害を抜いて、高齢者が要介護になる原因の第一位になると予測されている。したがって、少子高齢化が進み労働人口が減少する日本にとって、サルコペニア対策は重要な政策課題になっている。サルコペニア対策として、適切な栄養補給と運動の組み合わせによる予防が推奨されるが、実際には高齢者が骨折や入院などのきっかけにより一旦筋萎縮に陥ると、運動が不可能となり廃用性の筋萎縮が進行し悪循環に陥るため、骨格筋量・筋力を維持するための薬物介入も必要となっている。本研究では、サルコペニア病態の成立に骨格筋組織幹細胞=サテライト細胞の加齢性変化の寄与が大きいと予想し、作製した老化モデルマウスを使用して検証を行う。 初年度は老化モデルマウスの基礎解析、及び単離したサテライト細胞の解析を中心に行った。申請者はこれまでに、ヒトHGPSで最もよく見られる 1824C>T変異に相当する点変異を導入したヘテロマウスを作製した。作製したHGPSマウスの表現系が野生型の老齢マウスにおける生理的な加齢性変化を再現することを確認するため、骨格筋組織切片を作製してサテライト細胞の個数を比較した。その結果、HGPSマウスでは自然老化マウスと同様にサテライト細胞の個数の減少が見られた。さらに、サテライト細胞の遺伝子発現を網羅的に解析し、HGPSマウス由来と自然老化マウス由来の両者で同様の変化が見られるかを確認し、HGPSマウスが生理的加齢の時短モデルとして使用可能であることを確認した。 次に、野生型及びHGPSマウスの下肢長趾伸筋からそれぞれ同一本数の単一筋繊維を分離し(それぞれ200本ずつ)、遊走してくるサテライト細胞の数を比較した。また、次にサテライト細胞の加齢に伴う質的な変化として分化能の比較も行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において、初年度は1)作製した老化モデルマウスの基礎解析、2)サテライト細胞の単離の解析を予定していた。はじめに、作製した老化モデルマウスは、野生型マウスに比べ体重が約15%少なく、脱毛、白髪、筋萎縮、後弯が生後15週頃から進行し、平均45週で死亡することを確認した。さらに、筋組織切片を作製することで、より詳細な解析を行った。次に、単一筋繊維法と呼ばれる手法を用いてマウス下肢長趾伸筋から筋サテライト細胞を単離する技術を習得し、サテライト細胞レベルで老化モデルマウスと野生型マウスの相違を検証した。 以上のように、初年度は概ね当初の計画通り順調に進展した。
|
Strategy for Future Research Activity |
前年度までに行った網羅的遺伝子解析において、自然老化由来、及びHGPSマウス由来のサテライト細胞で顕著に低下するシグナル伝達系があることを見出した。そこで、実際にどのシグナル分子の発現が低下するのかを同定し、さらにその発現低下の分子機構を詳細に解析する。次に、見出したシグナル伝達系の低下が、サテライト細胞の加齢性変化の原因であるかどうかを検証するため、細胞レベル及び個体レベルでシグナル伝達分子の発現を回復させ、サテライト細胞及びサルコペニアに与える影響を観察する。 次にサテライト細胞への機械刺激の影響を解析する。野生型マウスとHGPSマウスを強制回転カゴに入れ長期運動負荷をかけ、下肢骨格筋に機械刺激を与え、組織切片を用いてheterochromatin構造の変化を 観察、比較することで老化による影響を評価する。さらに、長期運動負荷の前後で単離したサテライト細胞において、発現遺伝子の変化を解析し、運動前後の変化及び野生型とHGPSとの間で見られる違いを検出する。 上記の実験結果から、機械刺激に応答して野生型マウスではheterochromainからeuchromatinに移行するが、HGPSマウスでは移行しない遺伝子を絞りこむ。次に、不死化させたMEFにおいて、それらの遺伝子座をCRISPR法によりマルチカラー蛍光標識する(Ma et al. PNAS 2015;ベクターはAddgeneから入手可能)。このMEFを用いて、機械刺激により当該遺伝子が実際にheterochromatinからeuchromatinに移動することを生細胞で確認し、この応答にLMNAが必要であることを立証する。こうして選択された遺伝子が実際に加齢に伴い、運動負荷による応答性を失うことを、組織切片を作製して個体レベルで確認し、サルコペニア治療の標的となりうるかを検証する。
|