2020 Fiscal Year Research-status Report
ヒト膵癌のゲノム異常に基づく膵癌発症モデルマウスの作製と治療応用
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19K07416
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
泥谷 直樹 大分大学, 医学部, 准教授 (80305036)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 膵癌 / モデルマウス / DUSP4 |
Outline of Annual Research Achievements |
膵癌は最も予後不良な癌の一つで、5年生存率は10%に満たない。その理由として、①早期に浸潤癌に進展するため、根治切除術の適応になる症例が少ないこと、②既存の抗癌剤が奏功する症例が少ないこと、が挙げられる。したがって、膵癌の治療成績や予後を改善するためには、癌の進展に関わる分子メカニズムを詳細に解明することが必要である。 そのために、膵癌発症マウスは有用な疾患モデルとなり得る。しかしこれまで報告されているモデルマウスは、いずれも上皮内腫瘍の段階で蓄積される遺伝子異常を導入したものである。したがって、浸潤癌への進展にはプラスアルファの遺伝子異常が関与していると思われるがその詳細はブラックボックスのままである。またこれらのマウスを用いた臨床応用につながるような成果の報告はほとんどなく、その理由としてヒト膵癌を模倣したモデルではないことが挙げられる。 本研究では、上皮内腫瘍の発症に関わる遺伝子異常(変異Krasおよび変異p53)に加えて、浸潤癌への進展に関わる遺伝子異常(Dusp4欠失)を導入して、よりヒト膵癌に近いモデルマウスを作製する。 ヒト膵癌のゲノム異常を導入したマウスでは、ヒト膵癌と同様の発症・進展過程を経た浸潤癌の形成が期待される。したがって、上皮内癌から浸潤癌への進展過程に加えて、転移巣形成、癌悪液質の発症、癌死に至る過程を経時的に観察できるモデルとなる。また、進展過程で血中に放出されるタンパクや代謝産物、エクソソーム、micro RNAなどを網羅的に解析できる。それらの知見はヒト膵癌の早期バイオマーカーの確立に寄与することが期待される。さらに、細胞内の癌化・悪性化に関わるシグナルパスウェイの統合的理解と治療標的分子の決定にも有用である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ヒト膵癌を模倣した膵癌発症マウスを樹立するために以下の遺伝子改変マウスの交配を施行した。① 膵特異的プロモーター(Ptf1a)下でCrerecombinaseを発現するマウス、② Cre-recombinase存在下で活性型変異Kras(KrasG12D)を発現するマウス、③Cre-recombinase存在下で変異p53(p53R172H)を発現するマウス、④ Cre-recombinase存在下でDusp4を欠失するマウス。 このうち、膵特異的変異Kras発現マウス(①+②マウス)は作製済みである。すでに生後1年近く経過観察しており、経時的に膵臓に生じた腫瘍組織を採取して病理学的検索を進めている。生後4週からヒトのPanINに類似した前癌病変の発症を認めるが、その後上皮内癌や浸潤癌へ進展した個体は観察されていない。このことからKrasの変異のみでは膵癌の発症には不十分で、さらなる遺伝子異常の付加が必要であることがわかる。①+②マウスに③マウスをかけ合わせた膵特異的Kras発現+変異p53発現マウス(①+②+③マウス)は、生後2ヵ月時点で上皮内癌を発症した個体を認めている。さらに、6ヵ月以内に浸潤癌に進展し、癌死に至るマウスも認められた。①+②+③マウスに④マウスをかけ合わせた膵特異的変異Kras発現+変異p53発現+Dusp4欠失マウス(①+②+③+④マウス)は、これまで数匹作製され、いずれも生後6ヵ月以内に浸潤癌に進展して癌死に至った。現在、個体数を増やしているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
下記3種類の遺伝子改変マウスを作製して、組織学的変化を経時的に観察する。さらに生存期間を比較する。 ①+②(膵特異的変異Kras発現マウス) ①+②+③(膵特異的Kras発現+変異p53発現マウス) ①+②+③+④(膵特異的変異Kras発現+変異p53発現+Dusp4欠失マウス) 生後4週から18か月までの各時期において、適切な方法で屠殺後、膵臓を含む各臓器を採取して、一部を凍結保存、残りをホルマリン固定する。組織標本を作製して、前癌病変や浸潤癌の形成の有無と、腫瘍面積比、悪性度、転移巣の有無等について、野生型マウスを対照として比較検討する。解剖時に浸潤癌を示唆する腫瘤性病変を認めた場合は、腫瘤片を採取・分散して癌細胞株の樹立を試みる。観察期間中に死亡したマウスについては適宜解剖して膵臓の組織学的検索と死因究明に努める。また、上記の組織学的解析に用いたマウスから採取した血液を用いて血液生化学検査、赤血球・白血球数及び細胞分画、一般血液生化学、血糖値、インスリン濃度などを調べる。さらに、血液から血漿およびエクソソームを回収して、それぞれメタボローム解析およびmicro RNA発現解析に備える。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] A transgenic mouse expressing miR-210 in proximal tubule cells shows mitochondrial alteration: possible association of miR-210 with a shift in energy metabolism.2020
Author(s)
Nakada C, Hijiya N, Tsukamoto Y, Yano S, Kai T, Uchida T, Kimoto M, Takahashi M, Daa T, Matsuura K, Shin T, Mimata H, Moriyama M.
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Journal Title
J Pathol.
Volume: 251
Pages: 12-25
DOI
Peer Reviewed
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