2019 Fiscal Year Research-status Report
糖鎖構造に着目したタイラーウイルス受容体の探索と脱髄疾患の制御
Project/Area Number |
19K07511
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Research Institution | Tohoku Medical and Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
武田 和也 東北医科薬科大学, 医学部, 助教 (40393160)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | タイラーウイルス / 糖脂質 / ガングリオシド |
Outline of Annual Research Achievements |
タイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(TMEV)感染による中枢神経系の脱髄疾患(TMEV-IDD)は、ヒトの多発性硬化症モデルの一つとされている。一方、心筋炎や、てんかん発作モデルも報告されているが、TMEV感染機序は、その感染受容体(TMEVR)を含めて不明である。 筆者らはTMEVR探索の過程でTMEV結合細胞と非結合細胞においてGM1ガングリオシド(GM1)量が異なることを見いだし、TMEV感染/脱髄発症におけるシアル酸/糖鎖の役割に着目した。本研究計画では遺伝子、タンパク質、糖鎖の解析を通じてTMEVRの同定/感染機序を解明し、これらを標的とした病態制御の可能性について検証することを目的とした。 本年度は、TMEV感染におけるシアル酸/ガングリオシドの寄与の解明を目的として以下の実験を行った。TMEV結合細胞にGM1のトレーサーであるコレラトキシンBサブユニット(CTx-B)がよく結合することを見出したことから、マウスの脾臓、腹腔抽出細胞、骨髄細胞から誘導したマクロファージ、樹状細胞を用いて、TMEV結合量とCTx-B結合量の相関についてフローサイトメトリー(FCM)を用いて解析した。その結果、TMEVがよく結合する細胞はCTx-B結合能も高かった。さらに薄層クロマトグラフィー(TLC)による解析で、TMEV結合細胞においてGM1含有量が多いことを確認した。また糖脂質合成に関与する酵素群の遺伝子発現量を定量PCR(qPCR)により解析し、非結合細胞ではB4GALNT1が、結合細胞ではST3GAL5の発現量が高く、TMEV結合細胞でシアル酸結合糖鎖が多く存在することが示唆された。そこでTMEVが直接、GM1と作用するかどうか明らかにするため、マウス骨髄細胞由来樹状細胞に対してGM1を添加し、FCMによる解析を試みたが、TMEV結合量の変化は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マウス脾臓、腹腔、骨髄より誘導したマクロファージ、樹状細胞ならびに株化培養細胞を中心としたTMEV結合細胞と非結合細胞間のCTx-Bとの共染色によるFCM解析や、TLCによる糖脂質成分の解析、qPCRによる糖脂質合成経路酵素群の発現量の比較解析により、TMEV結合細胞においてシアル酸結合型糖鎖が多く存在することを明らかにした。またGM1など数種類のガングリオシドを細胞に添加してTMEV結合量の変化をFCMにより解析し、TMEVと直接作用する可能性のある糖脂質について検討を行い、in vitroにおける解析はほぼ完了した。 現状ではTMEVが直接、GM1等に作用している結果は得られなかったが、GM1等の添加による細胞膜成分への介入がTMEV刺激に対してIFN産生などに影響するかどうか、培養上清中のサイトカイン測定で明らかにする予定である。過去の報告ではTMEV-IDDへのガングリオシド投与による抑制効果が報告されているが、本研究の結果から、樹状細胞へのTMEVの感染には影響していないことが示唆された。 以上のことから、本研究計画の3つの柱のうちの一つである「TMEV-IDDへのシアル酸/ガングリオシドの寄与の解明」については概ね完了したため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの実験結果から、TMEV感染において、細胞表面のGM1に対して直接、TMEVが作用している可能性は低いと考えられた。しかしながらFCMを用いた解析ではGM1の他に数種類のガングリオシドについての検討に留まっており、対象をさらに広げる必要がある。そこで多種類の糖鎖構造との相互作用について解析するため、糖鎖アレイを用いた実験を追加する予定である。 続いて本研究計画の3つの柱のうちの残り二つである「遺伝子編集/導入によるTMEVRの探索/検証」「TMEV結合タンパク質の免疫沈降-質量分析法によるTMEVRの探索」を推進する。前者では、株化培養細胞を用いた実験系になるが、これまでの研究で見いだしたTMEVR候補遺伝子の機能の検証ならびに新規のTMEVR候補タンパク質を探索するため、TMEV結合細胞であるマウスマクロファージ様細胞株およびTMEV非結合細胞である骨髄性前駆細胞株を用いて、TMEVR候補遺伝子KO株の作製と機能の検証、同細胞株へのランダムな遺伝子欠失導入とTMEV感染/非感染細胞スクリーニングによる新規候補遺伝子の単離、骨髄性前駆細胞株へのランダムな遺伝子導入とTMEV感染/感染細胞スクリーニングによる新規候補遺伝子の単離を行う。後者では、TMEVのカプシドタンパク質VP1に対する抗体を用いて、TMEVと共に免疫沈降してくるタンパク質について質量分析計を用いて解析する。本実験では数種のTMEV結合細胞と非結合細胞との比較を加え、その結果を相互に検討する。 以上の各実験を通じて、TMEVRの同定と感染に寄与する糖鎖構造を解明し、TMEV-IDDにおけるそれぞれの役割の解明と、これらを標的とした病態の制御の可能性について検証する。
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Causes of Carryover |
本年度の研究結果を受けて、当初計画には無かった糖鎖アレイを用いた解析を次年度に追加することとなり、関係試薬の購入費用として次年度に当てることとした。
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