2023 Fiscal Year Research-status Report
上皮組織バリアによる臓器機能・生体内ネットワークの調節機構の解明
Project/Area Number |
19K07513
|
Research Institution | Dokkyo Medical University |
Principal Investigator |
伊藤 雅彦 獨協医科大学, 医学部, 准教授 (70270486)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 肝細胞 / 胆汁うっ滞 / PFIC / 毛細胆管バリア / タイトジャンクション / ZO-1 / ZO-2 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、上皮バリアの基盤であるタイトジャンクションの構成分子の変異が関連するヒト遺伝性疾患の報告が増加しています。その中で、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症(PFIC)の一種であるPFIC4の原因遺伝子が、タイトジャンクション構成分子ZO-2であることが明らかになりました。ZO-2は上皮バリアの調節に関与するタンパク質複合体を形成しますが、肝細胞におけるZO-2の欠損が、この疾患の病態とどのように関連しているかはまだ十分に解明されていません。そこで、本研究ではマウスモデルを用いてこの問題にアプローチしました。
先行研究では、ZO-2を全身的に欠損させたマウスは胎生10日前後で致死となり、肝臓の変化を解析することが困難でした。そのため、ZO-2 floxedマウスとAlbumin-Creトランスジェニックマウスを交配し、肝臓特異的にZO-2を欠損させたマウスを作製しました。これらのマウスは軽度の胆汁うっ滞を示しましたが、PFIC4患者のような重篤な状態には至りませんでした。その理由として、ZO-2に類似した一次構造を持つ分子ZO-1が機能を代替している可能性が考えられました。そこで、ZO-2とZO-1を同時に肝臓特異的に欠損させたマウス(L-DKOマウス)を作製しました。このL-DKOマウスは胆汁うっ滞と共に成長障害を示し、6週齢までに全個体が死亡しました。また、肝小葉構造が不明瞭になり、毛細胆管構造に異常が起きるなど、PFIC4患者の肝臓に類似した特徴を示すことが明らかになりました。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの組織レベルの解析から、ZO-2とZO-1の両分子を同時に欠損する肝臓では、肝細胞索構造と類洞の配置の乱れが生じ、E-cadherin陽性のzone1が拡張する一方で、zone3を特徴づけるグルタミン合成酵素陽性細胞が減少するなど、zonationが変化することが明らかになっています。免疫染色解析によれば、タイトジャンクション構成分子の局在異常だけでなく、毛細胆管への物質排出に関わるトランスポーターがapical膜へ局在化できない変化が起きていました。電子顕微鏡による微細構造解析では、本来は肝細胞のapical側に位置する毛細胆管が不規則に配置され、異常な形態を示すことが明らかになりました。また、細胞内ではvacuoleの出現やミトコンドリアの膨潤などの異常も認められました。
こうした変化の分子レベルの基盤を網羅的に明らかにするために、2週齢のコントロールマウスおよびL-DKOマウスの肝臓からRNAを精製し、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行いました。その結果、活性化している経路として、抗酸化ストレス応答、解毒代謝経路、コレステロール合成経路などが挙げられました。一方、抑制されている経路として、肝細胞分化経路、脂肪酸代謝経路、炎症反応経路などが挙げられました。
|
Strategy for Future Research Activity |
トランスクリプトーム解析データについてより詳細な検討を進め、活性化および抑制されている経路の中で具体的に大きな変化を示す遺伝子をリストアップします。遺伝子の発現パターンや関連する生化学的経路を網羅的に評価し、変化の傾向を明確に把握します。次に、リストアップした遺伝子が、いつから・どの程度の変化を示すかを定量PCRによって解析します。そのために、floxedマウスとAlbumin-Creマウスの交配によってZO-2とZO-1のタンパク質がいつから減少しているかをまず明らかにします。Albumin-CreはE15から発現するとされていることから、E15以降の胚から肝臓を取り出して解析します。また、P0、P1、P4、P7、P10と2週齢までの間のいくつかのポイントでコントロールマウスおよびL-DKOマウスの肝臓からRNAを精製し、胚由来のサンプルと合わせて定量PCRを行います。この実験により、遺伝子発現の変化が時間経過とともにどのように進行しているかを詳細に把握し、活性化および抑制されている経路の間の因果関係をできるだけ明らかにしていきたいと考えています。
|
Causes of Carryover |
【理由】 前々年度よりマウスの交配に問題が生じ、解析に使用するマウス個体数の不足から、計画全体として遅れが出てしまっている状況にあります。そのため、解析に使用する予定であった試薬類の購入費や委託解析用の費用の一部が未使用のままで、次年度使用額が生じることになりました。今回の使用計画は、これらの経緯を踏まえ、効果的に資金を活用するためのものです。 【使用計画】 解析に使用するためのマウスの交配と飼育に要する動物飼育費を、引き続き支出したいと思います。また、定量PCRを行う上で必要な試薬、プライマー、プレートなどの購入に使用したいと思います。さらに、生化学的解析を行うための試薬やキット類、また細胞生物学的解析用の抗体や試薬類およびプレートやピペットなどの消耗品の購入にも充てたいと考えています。これらの資材を使用して得たデータを元に、学会発表や論文発表を行いたいと考えています。そのため、発表に必要な費用としても活用したいと思います。これにより、未使用の予算を有効に活用し、研究の円滑な進行と成果の獲得を目指します。
|