2019 Fiscal Year Research-status Report
サルモネラの遅延型炎症誘導に関与するエフェクターの機能解析
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19K07543
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
羽田 健 北里大学, 薬学部, 講師 (00348591)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | サルモネラ / エフェクター / 遅延型炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではサルモネラ属細菌による遅延型腸炎誘導機構を明らかにするため、III型エフェクターHに注目しその機能を詳細に解析する。研究代表者らは、腸炎モデルマウスを用いた感染実験から、本属細菌による遅延型炎症誘導にはT3SS-2が重要な役割を果たすこと、また5つのエフェクターH, L, O, RおよびAAをコードする遺伝子の全ての欠損株(T1S5株)では、T3SS-2欠損株(T1T2株)と同様に、遅延型炎症が誘導されないことを見出した。本研究では、これら5つのエフェクターのうち、炎症誘導への関与が最も高いエフェクターHに注目した。エフェクターHはこれまでにいくつかの研究グループにより生化学的な解析が行われ、サルモネラ属菌がマクロファージに貪食されたのちに形成されるSalmonella containing vacuole(SCV)の形成および維持に関わることが報告されている。そこで、今年度はまず、エフェクターHによるSCVの形成維持が遅延型炎症誘導へ関与するか否かを明らかにすることを試みた。 エフェクターHをコードする遺伝子をpACYC-omegaにクローニングし、T1S5株に導入することで、エフェクターHのプラスミドによる相補株T1S5(pH)を作成した。しかしながら、この菌株は腸炎モデルマウスに感染したのち、プラスミドの欠落が認められ、遅延型炎症を誘導しなかった。次に、エフェクターHをT1S5株の染色体上のphoN遺伝子領域にインテグレートした相補株T1S5 phoN::Hを作製し、腸炎モデルマウスに感染したが、炎症は誘導されなかった。この理由を検討した結果、エフェクターHが発現していないことが明らかとなった。現在、T1S5 phoN::H株のエフェクターHの遺伝子発現をコントロールするプロモーターを再度検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は遅延型炎症を誘導しないT1S5株のエフェクターH相補株を作製し、さらに機能ドメインの欠失型Hまたはアミノ酸置換型Hを導入し、腸炎モデルマウスに感染することでSCVの形成維持による炎症誘導への影響を明らかにする予定であった。しかしながら、エフェクターHを発現するT1S5株を作製することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、エフェクターHを発現するT1S5株、機能ドメインの欠失型Hやアミノ酸置換型Hの相補株を作製し、これらの菌株を腸炎モデルマウスに感染することで、腸炎誘導とエフェクターHの既知の機能、すなわちSCVの形成維持の関係を明らかにする。 次に、SCVの形成維持により炎症が誘導されることが明らかとなった場合、既知の宿主因子と炎症誘導の関係を明らかにする。これまでにエフェクターHと相互作用する宿主因子が3つ同定されており、これらの宿主因子それぞれの欠損細胞ではSCV が形成されないことが示されている。そこで、SCVの形成が炎症誘導に関わるか否かを明らかにするために、これらの宿主因子を欠損させた培養細胞を作製する。培養細胞への遺伝子変異の導入はレンチウイルスベクターを用いたCRISPR/Cas9発現系を利用する。作製した遺伝子KO細胞にサルモネラを感染し、qPCRおよびELISAによって炎症性サイトカインの遺伝子発現および分泌量を定量する。遺伝子KO細胞においてエフェクターHにより炎症が認められない場合はKOした遺伝子が炎症誘導に関与する可能性が高い。よって、その宿主因子のノックアウトマウスを入手し、サルモネラを感染することでエフェクターH、宿主因子と炎症誘導の関係が明らかとなる。 エフェクターHの既知の機能と炎症誘導に関係性が認められない場合は、炎症誘導におけるエフェクターHの新規の機能を明らかにするために、エフェクターHと相互作用する宿主因子を同定することを試みる。まず、エフェクターHと相互作用する宿主因子を同定するため、エフェクターHをGST融合タンパク質として大腸菌で発現させ、精製後、HeLa細胞またはマクロファージ様細胞RAWの細胞抽出液を混和し、GSTプルダウンアッセイによりエフェクターHと結合する宿主因子を精製し、質量分析により同定する。
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Causes of Carryover |
腸炎モデルマウスに遅延型炎症を誘導しないT1S5のエフェクターH相補株が未作製のため、消耗品費(おもに実験動物および動物実験後のサイトカインの発現解析や病理解析に必要な試薬等)に未使用が生じた。菌株は現在作成中であるが、作製出来次第予定していた実験を行う。
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